−風来坊の砦−
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2004/04/21(水) 小説 『決意』@
           『 決意 』



「俺はあんたに賭けたんだ」


初めて見せる真剣な瞳がそこにあった。
…何故。一体、何がお前にそんな決意をさせたのだろう。
幼馴染みとして誰よりも気安く付き合ってきた親友の、白昼突然の宣告に、勇は戸惑いと違和感を感じずにはいられなかった。



「へっくしょん!」

盛大なくしゃみと共に、掛けていた布団が背から滑り落ちた。続いてまた大きなくしゃみが一つ。
火鉢に手をかざしながら、勇は鼻をすすり上げた。先程まで感じていた熱気が嘘のように、真冬の冷気と冷水で凍えた身体はなかなか温まらない。もう一つくしゃみをしたところで、勇は背後の障子が開く音を聞いた。

「よお、大丈夫か」
「…お前か…。平気だけど、くしゃみが止まらなくてな…」
「まあ、大仕事だったからな」

部屋に入り障子を静かに閉めると、歳三は勇の隣に腰を下ろした。そして、すっと勇の右頬を指差した。

「ここ」
「何だ」
「火傷してるぜ。首の所も少し。…熱かったか」

言われてみれば、炎に晒し続けた右側の頬や首筋に微かな痛みがある。片手で皮膚を辿ると、小さな水ぶくれがいくつか出来ていた。あのまま炎の前にいれば、この皮膚は惨めに焼け爛れていたに違いない。今更ながらにひやりとしたものを心に感じて、勇は苦笑した。

「あの時は夢中だったからなあ。実はそれほど熱くはなかった」
「意地っ張り。じゃあ、これはいらねえな」

歳三は勇の目の前で掌にのせた薬を見せ、にやりと笑いながらそれを袂に引っ込めようとした。途端に慌てて口を開こうとする勇を制し、歳三は笑って言った。

「塗ってやるよ。見せてみな」


「さすがは元薬屋だな。用意がいい」

歳三に塗って貰った火傷の傷口を触れないように確認しながら、勇は言った。

「おみつさんだよ。出掛ける前に色々総司に持たせてただろ」
「なんだ、総司のか。…まだ江戸を出てから少ししか経っていないのに、何だかもう懐かしいな」
「…ああ」

江戸の住み慣れた町並みとは違い、こうして街道を歩き、見知らぬ景色に囲まれていると、どうしても試衛館が遠く感じられる。先の長い旅を思い、勇は苦笑した。

「とにかく、助かったよ。宿割りの事といい、トシには…って、この名前はもう呼べないのか」
「ああ。因みに礼を言うのも禁止だ。言ったろ」
「不便だな…ト…土方君」

言いづらそうに口元を歪めた勇の言葉に、歳三は思わず吹き出した。勇がその様子を不満そうに見遣る。

「何だよ。自分で言っといて…」
「いいよ。二人の時はさ、前と同じでも」

笑いながらそう言う歳三を見て、勇は少しホッとする思いだった。昼間の歳三の突然の宣言に、距離を置かれたような気がして寂しく感じていたのだが、こうして膝を突合せて笑いあう、今の距離はとても近い。


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