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2004/08/23(月)
33話より『祈り』
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『 祈り 』
震える指をかけた障子を開くのに、どれだけ時間がかかっただろう。
消えていて欲しい、と。
そこには、僅かな祈りだけがあった。
既に主が逃げてしまっていて、誰もいない部屋。
奇妙な事に誰も気がつかなかったのだ。
障子の開く音を聞いた者もおらず、足音ひとつ聞こえず。
気がついた時には、影も形もなく、幻であったかのように消えていた。
当然、追手が後を追うだろう。
だが、腕利きの追手ですら、影一つ捕まえることはできずに、肩を落として戻ってくるのだ。
誰もが判らないと言い、時だけが過ぎ。
二度と会うこともないまま、皆の心に記憶だけを残して。
消えていればいい。
どうか…
やっとの思いで開いた障子戸の向こうに、見慣れた人影が動いた。
祈りは、何故届かない。
(33話より)
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