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2010/02/02(火)
準サンはぴば!
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タイトルが準サンハピバですが、日記の内容はイズミハです(笑)
ここのところ篭ってましたが、 どうにかこうにか無事に週末のオンリーの新刊入稿しました(*´∀`*)
最初はコピーのつもりだったんだけど、 なんか書き出してみたらオフにできるんじゃないかと迷いだし、 結局またギリギリで滑り込んでみましたwwwww
新刊はイズミハです。 でもって、夏に出した『櫻ヒラク、其ノ時マデ』の続きの社会人本になりました〜。 まあ、続きと言っても単体で読んでもたいして問題はありません。 一応いちゃいちゃを目指して……みてはいるよ(笑)
詳細はまたオフラインページにUPしますが、ひとまずサンプルをこっちにUP
********* 新刊サンプル **********
ざわり。
さほど広くもない室内が驚きと不安に揺れた。
発生源は患者のためにと置かれたTV。
前へと進んでいたはずの足が止まる。見えない網に絡めとられたように、視線をTVからはずすことができなくなる。
目が、意識のすべてが追いかけるのはただ一人。
液晶画面の向こう側で、地面に横たわり苦悶の表情を浮かべている青年。
(三橋っ!)
ついこのあいだ最新型へと買い換えられたTVは、なるほど。鮮明な映像美が売りだというのもうなずけるほどに、苦痛にこらえる青年の汗の一筋さえも映し出す。思わず手を伸ばしかけて、馬鹿げていると泉は唇を噛んだ。
TV中継の試合を観戦していた人々のざわめきに混ざって、実況席のやりとりが聞こえてくる。
『おおっと、これは大丈夫でしょうか。三橋選手グラウンドにうずくまったまま動こうとしません』
『当たった場所が頭ですからね、もしかすると脳震盪を起こしているかもしれません』
『大丈夫でしょうか?』
『ここからでは何とも』
『そうですね…おっと、担架が運び込まれてきました。どうやら交代のようですね』
『ええ。心配ですね。たいしたことがなければいいのですが』
体の中から血の気が引いていく。ふらつきそうになるのをこらえるように、泉はさらに強く唇を噛みしめた。
TVの中のアナウンスに呼応するように、固唾をのんでいた観客たちも徐々にその口を緩めだした。
「頭か…やっかいだな」
「しかもすっぽ抜けたとはいえ、かなりの速球だったろ。大丈夫なのか、あれ?」
「さあな。でも、どのみちこの試合にはもう出れないだろ。当たった場所が場所だけに、いくら本人が大丈夫といったって精密検査に直行コースだろうからな」
「そうだな。まあ…たいしたことないといいな」
TVの向こう側にいるというだけの知り合いでもない一選手だというのに、その声には真摯な響きが宿っていた。
だがそれも無理はない。ここにいる彼らもまた、同じように怪我によって第一線を退かなければならなかったアスリートたちなのだから。どうしたって人事には思えないのだろう。
「おい、どうした?」
肩に置かれた手に、現実へと引き戻される。
「…あ、いやちょっと」
呆然としたまま立ち尽くしていた己の肩を叩いた職場の先輩が、泉の顔を見て眉をひそめた。
「ちょっと顔色が悪いな。具合でも悪いのか?」
もしそうなら医務室にでもと言いかけた言葉を慌ててさえぎる。
「……いえ、大丈夫です。ちょっと立ちくらみがしただけですから」
「そうか? ならいいんだが。これから患者と対応するのにこっちの体調が万全じゃないと困るぞ。何か起きたときじゃ遅いからな」
「はい。わかっています」
大先輩ともいえる男の忠告を泉は素直に受け入れた。 そうだ、意識を切り替えなければならない。今自分がするべきことは、この先で待っている患者に対して全力を尽くすだけなのだ。違うことに気を取られていたら、患者を危険にさらしかねないではないか。
目を覚まさせるように、軽く頬を叩いて脳裏にこびりついた残像を振り払う。
気にならないわけじゃない。
心配をしてないわけじゃない。
本音を言えば今すぐにだってあいつのもとへと駆けだしていきたい。
でも、それをしてしまったら自分がここにいる意味がなくなってしまう。
(大丈夫。…あいつはきっと大丈夫)
もし、万一のことがあれば自分へと連絡が来るはずだ。 それまでは……。
(オレは、自分のやるべきことをするだけだ)
胸元に手を当てて服の上から握りしめる。布の上からでもわかる固い感触に、少しだけ冷静さを取り戻すことができた。
大丈夫。
大丈夫。
言い聞かせるように何度も心の中で繰り返して、泉は止めていた足を踏み出した。
磨きあげられたリノリウムの床にかすかな足音が響く。漏れ聞こえるTVの音に、泉はもう振り向くことはしなかった。
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