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2012/06/03(日)
久しぶりに創作!2
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昨日の続きです!(完成したのは今日だけど(笑))
あなたの背中を追いかける。昔のように。 昔と違うのは目線と、数年間の間に育っていた小さい心の芽。 神社に近づくにつれ、祭囃子の音色が大きくなってきた。 夏休みも終わりということで親子連れや恋人たちが狭い神社に集まっている。 すると、あなたは何も言わず私の手を握った。強すぎず優しすぎず。 「どこから回ろうか」 顔を上げるとあなたは微笑んでいた。鼓動がまた速くなる。 この鼓動が私の手を伝わって、大きいあなたの手に伝わるのではないか怖くなった。 「奈菜ちゃんは今も甘いもの好きかな」 黙り続けている私を見かねてか、あなたは少し握る手に力を入れて歩き始めた。 「……うん」 好きだよということが声にならなくて、また可愛くない返事をしてしまった。 それでもあなたはまだ私の手を握り、微笑んでいてくれる。 あなたに引かれながら、人ごみを進んでいった。 あなたが先を歩いてくれるから、私は安心できる。
ぶどう飴、チョコバナナなどの屋台を回りながら、あなたは甘いものを買ってくれた。 でも、あなたは食べないでいる。 「あ、秋君は甘いのは嫌いなの?」 あなたは苦笑いをしながら首の後ろをかいて頷いた。 甘いにおいも嫌いなのに、私のために昔から我慢してくれていたんだ。 そう思うとうれしいような、申し訳ないような気持ちになる。 「食べるのは苦手だけど、奈菜ちゃんがおいしそうに食べる姿は好きだよ」 私がそう食べるのは、甘いのが好き以外にも、あなたが私を見て微笑んでくれるから。 「そうなんだ。恥ずかしいな」 昔と同じ、二人の間に流れるふわふわした空気。 「このまま続けばいいのにな……」 「うん? どうかした?」 「な、なんでもないよ」 あなたはさっきよりもご機嫌な様子で、もう手をつなぐことは自然なことになっていた。 確かに私の手とつながっている。
あっという間に時間は過ぎ、祭りを閉める花火が夜空に咲き始めた。 そろそろお別れ。そんな雰囲気になっていた。 離れたくない。そう言ってしまってはあなたを困らせてしまう。 今、握っている手を離したらもう、会えないようなそんな気もした。 私の中で葛藤が始まる。あなたはさっき買ったラムネをゆっくり飲んでいる。 カランカランとガラス玉の音が響いた。 「そうだ。ちょっとここで待っていてくれる?」 あなたは飲みかけのラムネ瓶を私に渡すと、手を離して人ごみの中に紛れて行ってしまった。 あっさり離れたあなたと私の手。手の中にはなにも残っていない。 そして、あなたもいなくなってしまった。ふらりと風のように消えたあなた。
このまま会えないんじゃ。なぜかそう思ったら私は人ごみの中に入っていった。 花火を見ている人たちと帰宅する人の流れでうまく前に進まない。 人にぶつかり、転びそうになった。あなたに似た人を見つけて追いかけたら別人だった。 屋台をすべて見て回ったのにあなたはみつからない。 寂しさがこみあげてくる。高校生なのに、小学生みたいに泣いてしまいそうだった。 「秋君……秋君どこ?」 私は独り言のように呼びかける。呼びかけても人声でかき消されていった。 「ななちゃん!」 後ろの方で私の名前を呼ぶ人がいる。同姓同名の人なのかもしれない、それでも私は振り返った。 「奈菜ちゃん!」 人ごみをかき分けながら近づいてくるあなたの姿が見える。私もすぐにあなたに駆け寄った。 あなたは暑さのせいか少し汗をかいていた。 「いなくなっちゃったから心配したよ」 そういいながら、あなたは微笑んでいた。 「ごめんなさい」 すると、私の前に割り箸に巻きついた大きなわたあめが差し出された。 わたあめもあなたのように少し汗をかいている。 「ちょっとしぼんじゃったけどいいかな」 「うん。ありがとう」 私たちはまた人ごみから離れた狛犬の石段に座った。
あなたは飲みかけのラムネを飲み、あなたの右側で私はわたあめをつまみながら食べている。 「わたあめはおいしい?」 「おいしいよ」 わたあめはつまむだけで溶けて砂糖水に戻ってしまう。 まるでさっきのあなたみたいに簡単に。 昔からそう、1日だけ私の前に現れる幻のあなた。 きっとこのわたあめを食べ終えたらもう会えない。 「これからもずっと秋君といたいな……」 心の声が言葉になっていた。私はなにも言っていないふりをするために 慌ててわたあめを摘まみ始めた。 すると、あなたの右手がいきなり、私の左手首を掴み私の前からわたあめをずらす。 そして、私のすぐ目の前にあなたの顔があった。
ぽたぽたと割り箸をつたって、私の左手が砂糖水で濡れていく。 まだあなたは右手で私の左手首を掴んだまま、口のまわりについたものを左手で拭きとっていた。 近づいてきたあなたの顔を思い出すと鼓動が痛い。 「やっぱり甘いな。これ」 オレンジ色の電球のせいか、あなたの顔が赤く見える。 そして、まだあなたの右手は握られたままだった。 優しく握られた温かい右手に、私の手からつたった砂糖水が垂れていく。 二人とも顔を合わせずなにも言えなかった。 昔と違うふわふわした空気が流れている。
わたあめが溶けきるまで動けそうにない。 大きな花火が二人の上に大きく咲いた。
(了) 『わたあめ』(2/2) (C)2012/火月
久しぶりにできて楽しかったです! それでは今日はこの辺で!!失礼!!
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