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2005/05/05(木)
父ちゃんC
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母ちゃんに言わせると父ちゃんは若い頃気短だったらしい。 そういえば、父ちゃんに怒られるのは怖かった。それなのに、妙に父ちゃんと母ちゃんがケンカしたらいつも父ちゃんは悪くない、間違ってるのは母ちゃんのほうだと子ども心にいつもそう思ったものだ。
父ちゃんの弟子とも片腕とも呼ばれた男≪N≫中学校の頃から田んぼに出て働いてた。 三つ違いの兄≪H≫と母やと父やは近所のO地区の人間からは≪O地区の3バカ≫と笑われていた。 高校に行かせる約束で中学を終えると石屋に来て住み込みで働いた。夕方から夜間の高校に通って父ちゃんも母ちゃんも子どものように思ってたし、小春たちも家族のように思ってた。 野球の嫌いな小春家族もTVは彼に合わせてたし、苦痛でもなかった。母ちゃんは≪N≫が高校から帰ってくるのを毎晩待ってたし・・・。
≪N≫も≪H≫も真面目な男だった。 年は小春のダンナより一つ下と一つ上の従兄弟たち。 ≪N≫はどんな男だったやら。世間的なことはなんでもこなし、年間の行事はよく覚えていて気配りの男のように思う。 父ちゃんも母ちゃんも、≪N≫の父親・母親・兄たちの足りないところを≪N≫がカバーしていけるよう教え込んだ。 仕事もしっかり一人前以上になるまで教え込んだ。≪N≫も期待に応えた。
高校終えて、この辺りではその年にしては早くに車を持つことが出来た若い彼だった。 仕事も私生活も一緒だった。 彼も、小春の親達を父ちゃん母ちゃんと呼んでたから、親同然に見てくれていると信じてた。 父ちゃんはのちに、「≪N≫も≪H≫が背も立たないのに耕運機を動かすのを見てて涙が出た。」と言っていたことがある。
彼が二十歳を過ぎた頃には、親や兄の何事かにはネクタイの結び方から全身のチェックに気を使ったりと世話を焼かなければならなかった。その後ろには父ちゃん母ちゃんが居た。 彼が家を建てる時も、父ちゃんはお金を貸したと言ってたが彼の心にはどう映ったのか。 次男であった彼、頼りにならない父親と母親と兄。
父ちゃんが職業病で何度か入院した時、何度か辞めると言い出した彼。 父ちゃんには恩義があっても良さそうなのに・・・。 ≪H≫のことは、あまり覚えていない。いつの間にか来てて、≪N≫と一緒に辞めて言った従兄弟、≪N≫の兄。
だから、小春が結婚することになって、ダンナには≪N≫のことを偉いと褒めてたものだが、ダンナは 「独身の時はやれる。結婚してもやれるのが立派なんだ。」 小春にはその時わからなかったが、そういうものなんだな。そして、「苦労し過ぎた人間は心がひねくれてる。」とも。 ダンナはその時、≪N≫のことだけを表現したわけではなかった。らしい。
最後に≪N≫が父ちゃんのところから離れていった時、彼は結婚をしていて≪R≫という奥さんが居た。 それがまた彼の性格をより捻じ曲げる人であった。最悪の女性。 たぶん小春側の人間にとっては・・・。 ≪N≫たち夫婦がO地区の村八分になったとか、なりそうになったとか聞いたときはやっぱりという感じがしたが。
どうしてこんなことまで日記に書くのか・・・答えは簡単だ。 父ちゃんのなくなった日、実家には彼の親族が来て長いこと仏様の前で会議をしてた。夜遅くまで。 彼の親族イコール彼の兄の近所。小春の実家の血縁ではない。 葬儀の手伝いをしてくれるものと思って我慢してた。
翌日はお通夜。お通夜は斎場で行うので納棺して、ホールに向かう。 出掛けに≪N≫が「みんないっちゃーのー?鍵は?カギ?」と騒いでる。小春はダンナに「≪N≫がカギだって騒いでるよ。」 ≪N≫は母ちゃんの兄の子。小春たちにはほかに母ちゃんの姉の子の従弟セイちゃんが居てそちらとは仲良くやってる。 カギは仲の良いほうの従弟に頼む手筈になってたが、ダンナ、何とか名前を出さずに上手く話をかわしてくれて・・・。
通夜から帰って、話を聞いて驚いた。誰も留守を守ってくれる人が居ないのでセイちゃんとセイちゃんの奥さんの玉ちゃんが自宅の受付をやってくれたというので家族全員頭にきた。斎場の受付も誰も居なくてホールの人がやってくれたというのだ。 なんのために、前の晩長々と実家の家を占領してたのだ、9人も集まって・・・。悪意があるとしか思えない。 ずっと、父ちゃんのそばにいかれなくてヤキモキと時間をすごしたというのに。 それなのに斎場には花輪が二つも。生花も二つ。目立つことだけやって心無い仕打ち。
明日のお手伝いは期待できないと相談して、セイちゃんにお願いをして告別式の朝を迎える。
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