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2007/04/02(月)
「祝婚」〜谷川俊太郎
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男の若い首筋が 少しさびしげに見えるのはいい いつのまにか男は男の父に似ている
女のみはった瞳が 少しいどむようなのはいい いつのまにか女は女の母に似ている
街のいつものざわめきが いつものようなのはいい 平凡は平凡のままでドラマになろうとしている
樹々の枝が 今日三ミリ天へと伸びたのはいい 誰もそれに気づかなかったとしても
めでたいこの日にも やはりどこかで人は死んでいる 愛し合うもののために
生まれてくるもののために 彼がこの世界を遺してくれたのはいい
たとえそこに血が流れているとしても たとえそこに石と空しかないとしても 今日のふたりは世界を受け取ったのだ てのひらにたたえた水のように あやうく しかもゆたかに 常ならぬこの地上で ひとりひとりが誓い合うのはいい 何に向かってかそれは知らずに
そしていつかこの日も 静かに暮れていくのはいい 初めての夜がくるのはいい
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