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2014/09/09(火)
昭和55年作
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母 病む母にもの言ひ返す我がうしろ妻が俄に窓の虹を差す 真赤なる手の平かざし見てゐし母何も言はずに眼を閉ぢぬ 口ひらきいびきをかきて眠る母胸に置く手の紅斑あかし 母の癌を告げられ眠れぬ長き夜の夜明けてなべての窓開け放つ 夜明くれば限られし母の命また一日少なくなりにけるかな 隣室に痰吸引の聞こゆれば母病む部屋の窓を閉ざしぬ 梅雨晴れとなるらむ窓のほの明けをベッドに体起し見る母 助からないなら家の畳で逝かしめよと言ひし言葉に我は苦しむ またひとり亡くなりたりと寝たきりの母が気配を察して話す 死んでも母は地獄へなんかいくものか地獄の如き世を生きたれば
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