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2006/08/02(水)
八月二日
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夏にしては珍しく暑さをさほど感じさせない日であった。 植田はベッドに寝転んでいる。薄く開けられた目はクローゼットの扉に向いている。 と、茶色く細長い物体が視界の右下から突然侵入してきた。 あまりに唐突であったので少し取り乱し、びくりと身体を震わせる。 よくよく見てみるとそれは、明治期、辞書編纂の際に「か」の字を落された、 あの国民的不人気昆虫…つまりGであった。 声にならない声を上げ、ベッドの上で必死で体感している現実を否定する植田。 それは…ごそり、と、クローゼットに身体を入れて、見えなくなった。 もうこれでクローゼットは半永久的に封印が確定したと思いつつ、 少し安堵の息を漏らしたところで、植田は目を覚ました。 夢落ち…。体験してみると何と素敵な言葉であろうかと植田は思う。 蝉よりも五月蝿く鈴の騒音をかき鳴らす目覚し時計を止め、植田は学校へ行く支度をする。 学期に一つ区切りがつき、一週間分に渡る学校での補習が終った後にも、 数学の教師が善意で八月の最初の四日だけ補習を組んでくれることになっていたのだった。 しかし、この所為で植田は睡眠不足状態にあるとも言える。 市内の高校へ通っているのに、通学に一時間は軽く掛かってしまうのは、何故なのだろうか。 九時という、十二分に余裕のある時間帯にも関らず、普段並の早起きを強制される理由とは何か。 それはもう、市政の不備であるとしか考えられないのではあるが、出来ることは嘆くことのみである。 登校するも、若干呆けたままの頭でベクトルについての講義を受けて、植田は帰る。 寝てみる悪夢と起きてみる悪夢を切り捨てて、次は素敵な夢を見る為に…。
--- 地殻が近く なにそのとんでも居住空間。
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