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2006/08/04(金)
八月四日
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サボタージュする。略してサボる。 最早日本語としか思えない凄い外来語である。 言うまでもなく、基本的に善行とは言えないであろう。 これを日常的に行う人間もいれば、そうでない人間もいる。 植田は密かに自慢としていたのだが、後者の側に属していた。 勿論、圧倒的に人々はそちら側に属してはいるのだが。 このような導入部から誰もが察せられるように、植田はその禁忌を犯した。 別に積極的にそのような行為に及んだのではないのであると 植田が幾ら弁明したところで、それは結局自分の為の言い訳にしかならない。 夏季休業が始まって以来、あまり勉強に打ちこむタイプで無い植田は、 次善策として学校の主催する補習授業に出席していた。 前期補習そのものは先月末に終了ししまったのであるが、 数学の教師が善意から更に八月の最初の四日間、再び補習を組んでくれることとなった。 正直に言って植田にはついていくのが難しかったのだが、まあ頑張っていた。 一日を残して木曜日。植田は同じく受講していた友人にサボりを誘われる。 迷った。植田としてはというか、植田の中に存在する常識としては 圧倒的に受け入れられない申し出であった。 願望としてのサボりがあるとは言え、選択肢には入らないのが普段であった。 しかし、毎朝毎朝、とてつもない暑さである。アスファルトも沸騰しそうだ。 そのようなとても耐えられたものではない気温の中で、 校庭から聞こえる気に障る蝉と野球部員の声に囲まれてよくわからない数列の解説である。 そもそも夏休みからして、真夏が学習には向かない季節であるから導入されたのではなかったか。 つまり、自分は全く理が通らないことをしているのではないか。 孔子先生が泣いて止めたくなるのではないだろうか。 そのような無意味な考えが徐々に植田の脳内で領域を拡大する。 良識が欲望に屈服する瞬間が植田には実に明瞭に知覚できた。 それでも依然主流を行く良識派を納得させるために一晩悩んだ演技をした。あゝ自己欺瞞。 さて翌日…つまり、今朝。 植田は、体制に逆らう幼い昂揚感に胸の高鳴りを覚え、頬をやや朱に染め植田は小声で告げる。 「さぼっちゃおっか」 その後の植田達の行動はあまりにそれらしいものであった。 本屋と新古書店を巡り巡ったのである。遠く神戸は三宮まで足を伸ばして。 持てる資金をほぼ散財して、代わりに漫画と一片の罪悪感に鞄を膨らませ、それぞれに帰宅した。
--- 「日溜りでお黙りっ」 干からびますです…。
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