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2010/01/06(水)
軌道車の中の軌道
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一月一日にあれだけ大仰に宣言しておきながらウェブ上の記録は一切残らない五日間を過ごしました。初っ端から反省の必要があるようです。 さて、それはそれとして。 今日、不思議にしてほんの僅かに愉快な風景を見ました。 其れは、私が電車のシートで松宮孝明という立命大教授の書いた刑法各論講義第二版に目を通してゐた時にやって来ました。私は、かなり最初の方の殺人予備罪の項を読んでゐました。「…本罪は、自らが単独でまたは共犯者とともに殺人罪を犯す目てき…」まさに其処まで読んだ時、私の視界の隅に床を行く銀色が見えました。気味の悪い虫ではなかろうかと恐れながら下を向くと、其れはつやと輝くパチンコ玉でした。パチンコ玉は全く無邪気に電車の揺れに合わせて右へ右へ、また左へと縦横に転がりました。一様に暗いトーンの恰好をした人々の股の下をくぐったり、革靴にぶつかったりと好き放題。靴に微かな着弾を感じた人は自分の靴の辺りを検分しますが、既にパチンコ玉は忙しく空戦をこなす戦闘機の如く一撃離脱。次の目標に向けて進路転換していました。私は本を閉じて膝に置いたまま、其の丸い戦闘機が人々に次々に戸惑いと可笑しみを命中させるのを目で追いました。そう、其の時はもうパチンコ玉に気付いた人も幾らかはゐたのです。私は、人々が一生懸命床を見渡したり、或いは互いに囁き合うのを見て気持ち程度口元をゆるめました。 結局、私はすぐに飽きて刑法の勉強へ戻りました。けれども、疲れて目を閉じると不意に脳裡に先程の生々としたパチンコ玉の弾道が浮かび、不思議に胸の空くような気に成りました。
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