舞台裏日記
ホームページ最新月全表示|携帯へURLを送る(i-modevodafoneEZweb

2004年11月
前の月 次の月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
最新の絵日記ダイジェスト
2009/02/05 引越ししています
2007/05/31 Libera me!
2007/05/29 滅多にしない料理
2007/05/27 「おとこ」だぜ!
2007/05/26 レッスンに行ってきました

直接移動: 20092 月  20075 4 3 2 1 月  200612 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 月  200512 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 月  200412 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 月  200312 月 

2004/11/22(月) 「ラ・ボエーム」雑考その3 ロドルフォの巻
◆芸術家たちの挫折・・・その@:ロドルフォの挫折◆
このオペラは一般的に「悲劇」とされているが、
それは単にミミが死ぬから「悲劇」なのではない。
このオペラの悲劇性はミミの死(というよりむしろ「命」)に対して人生を謳歌しているはずの5人の若者が「無力であった」ということなのだ。


●なぜロドルフォは自らの原稿を燃やしたのか・・・●
オペラの幕が開くと、まず自分の仕事をしている画家マルチェルロと、それとは対称的に窓の外を物憂げに眺めているロドルフォの姿が現れる。
 このとき詩人であるはずのロドルフォは何故自らの仕事を放棄し、窓の外を見つめているのか?そして彼はそこに何を思うのか?


僕も作曲をしたり、昔は自作の小説を書いたりした経験があります。
その経験から素人ではありますが「物書き」として、その心理として・・・若いころの未熟な作品っていつまでも捨てることができずに引き出しの奥の方に残しておくものです。
 ロドルフォもおそらくそんな風に宝物のように残していた作品を、オペラの冒頭で惜しげもなく薪の代わりに燃やしてしまいます。
ロドルフォは自分の「青春の思い出」を捨てるだけでなく、詩人としての自分自身の「これまでの人生」そのものを捨てようとしているのではないでしょうか?

●あのシーンで「原稿を燃やすこと」が部屋を本当に暖めるのに足りるものでないことはロドルフォにもマルチェルロにもわかっています。
だってどうせ燃やすなら何も原稿を燃やさなくたって、まだ何も書かれていない白い紙が山ほどあるはずじゃないですか。
そこまで彼らはバカではありません。
あのとき彼らが行っている行動は「部屋を暖めること」が目的なのではなく、「自らの血と汗がにじんだ青春の結晶」である「作品を燃やすこと」にこそ意味があったのです。

ロドルフォはオペラの幕開けで窓の外を物憂げに眺めています。
その視界には
「灰色の空に、パリのたくさんの屋根から煙が立ちのぼる "Nei cieli bigi (guardo) fumar dai mille comignoli Parigi,"」
様子が映ります。
・・・あんな煙のように僕の作品、そして僕の青春とも言える「芸術の精神」を天に昇らせてしまいたい・・・

彼は今の生活に失望しきっています。
ミミが登場する時に彼が手がけている原稿とは、流行雑誌「カストロcastoro」(・・・今で言う写真週刊誌?ゴシップ誌のようなもので、どう考えても文芸的な価値を持っているとは思えない)のためのもの。
生活のためとは言え、自らの詩人としてのプライドも何もないものを書かざるを得なかったロドルフォ。
そして彼はその仕事に「気が乗らない "Non sono in vena."」のです。(※ここで注目すべきはこの部分のト書きに"sfiduciato=失望して"と書いてあることです)

そして・・・

そこにミミが登場したのです。

彼女こそ、ロドルフォの心の中で消えかかっていた火を再び燃え上がらせるのに充分な精神的な魅力を持っていた・・・。
ロドルフォが第2幕で仲間たちにミミを紹介するときの短いアリアの何と情熱的なことか。

しかし彼の心の火は第3幕の前で再び消えかかり第3幕フィナーレではまた持ち直し、
第4幕冒頭では再び消えかかっては、またミミの登場によって(たとえそれが自らの「命の火」の消えかかった恋人であったとしても)燃え上がるのです。
そしてラストシーン・・・そのともしびは遂に完全に息絶えます。
このオペラ中、最初から最後まで運命に翻弄され続けるロドルフォ。
しかし彼は恋人の命と引き換えに自らの芸術家としての命を再び蘇らせることでしょう・・・そう信じたい・・・この「ラ・ボエーム」という物語がロドルフォ自身による回想を描いた小説である・・・と信じたいのです。

※★今日のおすすめサイト→「ぶらぶら猫のパリ散歩」:パリの地図や歴史上の出来事が掲載されているHP。オペラ中に登場する「カルティエ・ラタン」なんかも詳しく掲載されています。
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/saito_burabura/bb/WebFfiles/BBWeb000.html


 Copyright ©2003 FC2 Inc. All Rights Reserved.