舞台裏日記
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2004/11/25(木) 「ラ・ボエーム」雑考その6・・・優しいウソ
◆優しいウソ◆
第4幕、瀕死のミミをムゼッタが連れてきてから友人スちはロドルフォのためにそれぞれがウソをついています。
その一つ一つを見ていくと、あのシーンがどんなに暖かい友情に包まれているか・・・そしてそのウソがそれぞれの「絶望」から生まれたものであり、より悲劇性を増しています。

●部屋を出る口実:ショナールのウソ●
マルチェルロとムゼッタが部屋をあとにし、コルリーネも自分の外套を質屋で売りに行こうとします。
ただ1人、何もできずにいるショナールにコルリーネはこう言います。
「ショナール・・・(略)あいつらを二人だけにしてやれよ!」
ショナールはコルリーネの提案に感動し、部屋を出ようとします。(練習番号20:Andantino mosso)
しばらくオーケストラだけの音楽が流れる中、ショナールは部屋を出て行きます。
このときの音楽が第1幕で登場する「ショナールの主題」の変奏から「ロドルフォのアリアのメロディ」に移行する様はまさに秀逸です。
この部分のト書き「ショナールはあたりを見回して自分が外に出て行く口実に水差しを持って注意深く戸を閉め、コルリーネのあとを追って下に降りていく」
水差しに水をくんでくる必要なんてないのですが、ロドルフォに気を遣わせないように口実を探すんですね。
そしてその後ミミが咳き込み、ロドルフォの絶叫を聞くとすぐ部屋に走りこんできます。
おそらく水をくんだ後、階段を上り、部屋の扉の前で膝を抱えて仲間(と医者)が帰って来るのを待っていたのでしょう。

●「医者は来るさ・・・」:マルチェルロのウソ●
マルチェルロはムゼッタと共に部屋に帰ってきてから、わずか数分の間に二回同じ言葉を繰り返します。
これは心理的にこの事柄を強調しようとしていると同時に、
何らかのウソをついていることも表しているとは言えないでしょうか?
その言葉とは・・・"Verra."「(医者は)来るさ」
この部屋に帰ってくる前に街角で医者に会ったというマルチェルロ。
気付け薬だけを持って彼らは帰ってきます。
しかし今のミミにとって「気付け薬」は生きている時間をほんのわずかに延ばすだけで、治療として効果的とは言えないのでは?
では、果たして医者は本当に来るのか・・・?

ロドルフォ「医者は何て言っていたんだ?」
マルチェルロ
「来るさ・・・」
このマルチェルロのあっさりとした言葉。しかもロドルフォの問いに対して矛盾した返答。
僕にはむしろ「来ない・・・」と聞こえます。
マルチェルロは本当に医者に会ったのでしょうか?
会ったのなら一時を争うこの状況で力ずくでも連れてくるべきだし、
それができなかったとしたら、医者には会ったが相手にしてもらえなかったのか・・・?
いずれにせよ、このあまりにもあっさりとした返答には多くの含みがあるように思えてなりません。
このことからミミの容態が明らかに手遅れであることが見てとれる状態だったことも読み取れますし、そこに絶望している友人たちの気持ち・・・それでも何もしないでその時(死)を待つだけではいられない彼らの気持ちが胸に響きます。

●「眠っているの?」:ムゼッタの言葉の選択●
上記のことが事実なら、マルチェルロと一緒にいたムゼッタは彼と同じ想いであることは当然のことです。
二人が部屋に戻ってきたとき、ミミは目をつぶっていました。
部屋の中はあまりにも静寂です。
そしてムゼッタの第一声・・・"Dorme?"「眠っているの?」
この言葉はムゼッタの一瞬の判断で選んだ最良の言葉です。
ミミはもう医者を呼んでも無駄だ・・・時間の問題だ(その前にショナールが「あと30分ももたないぞ・・・」と言っている)とわかっているムゼッタ。
部屋の扉を開くと目をつぶっているミミ。部屋の静寂。
当然彼女は「まさか・・・死んでる?」と思ったに違いありません。
しかしあまりにもダイレクトには質問できず、
「眠っているの?」と尋ねたと考えるのが自然です。
この問いかけにロドルフォが「休んでいる」と答え、ムゼッタはホッとしたのでしょう。
すかさずマルチェルロがロドルフォに話しかけます。
この絶妙の「間」がプッチーニの見事な心理描写でもあり、
そこに彼らの様々な思惑が表されています。
そしてそれが全てロドルフォへの優しい気遣いにつながっていることは言うまでもありません。


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