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2006/10/27(金)
20(後半)
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そうして、京一はあっさり中国に渡り、日本に帰るときは必ず龍麻のもとに寄る。 京一のいない生活に、そばにあった熱量の塊がないことに、龍麻は初めこそ戸惑ったが案外すぐに慣れた。離れて思い出すのは、どうしてか大晦日の晩のあの日のあの腕だった。どうしてるだろうな、と懐かしく思う頃に京一はひょいと帰ってきた。 ひ ちゃん、と呼ばれた。ちったァ強くなったつもりだぜ、手合わせしよう。楽しくて堪らなかった。 磨り減ってゆくものがある。それは事実だ。同時に土のように空気を含んで穴を埋めるものもある。 京一はどんどん俗世離れしてゆく。剣の道に生きていると獣じみた勘は余程養われるものらしい。 だから龍麻が東京の自宅を離れているときに突然京一と出くわしたりしても、龍麻は驚かない。ちょっと笑って声をかける。それを見て京一は飴色の目を細める。あとはどこでも同じだ。 妖じみた存在に片足を突っ込みかけていた龍麻は、逆にそういう点では鈍りっ放しだ。 「ひ ちゃん、最近壬生にご執心だってなァ、如月が茶飲み話の種に事欠かないとか言ってたぜ」 濡れた髪を肩にひっかけたバスタオルで大雑把に拭きながら、京一がトランクス一枚で風呂から上がってきた。特に断りもなく冷蔵庫を開け、缶ビィルを取り出す。 「ちゃんと髪乾かせよ」 濡れていつもより色濃い赤茶色の髪の先から滴が垂れているのを見咎めると、京一は一瞬決まり悪そうに笑って缶ビールを龍麻にも投げて寄越した。 「何だ妬いてるか?」 こちらもにやと笑い返すと、既に喉を鳴らしてビールを嚥下していた京一は気持ちよさそうに龍麻を見返した。 「バッカ言うなって。そんなわけねェだろ。」 龍麻もプルタブを起こした。泡の弾けるいい音がする。苦味が心地よい。 「……まァ、ひーちゃん別に男が好きってんでもねェから、意外っちゃあ意外かもな。」 「自分でもね。だけど壬生、あんなの反則だ。」 「はァ?」 「もうさ、放っておけないんだ。二人で幸せになろうなって何万回でも言いたくなる。」 「……頭痛ェな、こりゃ。如月が溜息つくのも分かる気するぜ」 そう言いながらも、京一は龍麻が身体を預けているソファまで近寄ってきて隣にどっかと腰を下ろした。 「よかったな」 そうして、こちらも生乾きの龍麻の髪をわしゃくしゃにかき回して、祝福をくれた。 腹の底まで熱く染み渡っていくものがある。 何より嬉しい。 「ありがとう」 思わず震えた声に苦笑し、龍麻は話題を振った。 「おまえはどうなんだ」 「自分が身ィ固めたからって俺の心配かよ、ったく」 いよいよ呆れた京一が龍麻の手からも取り上げて缶をローテーブルに置く。 磨り減ってゆくものがある。それは事実だ。同時に土のように空気を含んで穴を埋めるものもある。 「変わらないからな」 あ、と思った。失敗した。目の前にお互いがいればそれだけでそれ以下でもそれ以上でもない関係を名づける行為に触れて来ずに年月が経っていた。当たり前すぎて不安になった龍麻の揺れが滲んだ。 「壬生が気にすんじゃねェのか」 悪ふざけをするときの目の光で、京一が投げかける。 「……言われてみればそんなこともまあ、あるかもな。」 俄に、ならば変わってゆくのか、と思う前に手が伸びた。京一の膝に乗り上げて前髪をかきわけて京一の目を覗き込む。僅かな飢餓を認めるとたまらなくなってキスを交わした。ゆっくりと背中を抱き返す腕は脆いものではなかった。 唇を離して龍麻は京一の肩口に顔をうずめた。目の前にいるから手が伸びる。 目の前にいなければいいのに、触れる近くにいたなら、龍麻は他の何でもない京一が欲しい。欲しいというのは、顔を見ていたいでもないし一緒にいたいでも決してない。ましてセックスしたいでもない。それなら、柔らかなキスと伸ばされる温い手の方が近い。 龍麻の目に京一が映ると京一が知っていること、の方がもっと近い。 それを忘れないなら、それでいい。 夜のしずけさが落ちていった。
タイトルが毎回「こじつけじゃねぇの」とか思うようなそういう感じですが、一応ちゃんとタイトルから膨らませてはいます。 六年のうちに、壬生主→京主→主&京一→主京(リバ)→主壬生 ときて、こんな感じになりました。萌えの変遷を見る。 龍麻&京一、というのと主壬生というのは私の萌えの二大要素を片方ずつ持ってる感じです。 この調子でさくさく進めていきたいものです。100のお題。 次回は…多分遊戯。
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