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2005/10/19(水) 鎮守様の祭り
 少年は毎年の祭りを楽しみにしていた。夏休みの終わる頃に少年の住む集落は祭りがある。村の高台にある鎮守様に長い幟が立てられ、集落は一気に祭りのム−ドに包まれる。
 少年は夕方になると近所の友達と神社に出かけた。今年は何軒の夜店が並ぶかを話し合っていると、軽トラックに乗って夜店のおじさんがやってきた。
 次から次へと積みおろされるダンボ−ルの箱から見たことのないような玩具が次々とテントの下に並べられると、小遣いも持たないのに、思わずそこに眼がいってしまう。
 少年がそんなことに夢中になっていると、ひとつ年長の従兄弟が少年のズボンを引っ張った。何だ、と振り返ると、見たこともない少女がそこに立っていた。
 「おまえは誰だ」と従兄弟が聞くと少女は恥ずかしそうにうつむいて夜店のおじさんのほうを指差した。どうやらおじさんの車に一緒に乗ってきたらしい。
 「おっ、美加坊、早速友達ができたな、仲良くやれよ」と夜店のおじさんは僕達に向かって叫んだ。
 名前は美加というらしい。少年達とはすぐに友達になった。おじさんの広げたばかりの金魚すくいをさせてもらったり、神社の太鼓を叩いたりして遊んだ。
 祭りの夜はすぐにやってきた。近くの公民館の屋根に付けられたラッパ状のスピ−カ−から流れるフォ−クダンスの曲「オクラホマミキサ−」が祭りの喜びと哀愁を感じさせてくれた。
 美加と少年達はおじさんのくれた綿あめにかじりつきながらいろいろな事を話した。美加はおじさんの本当の娘ではなく、おじさんの兄の子供だという。交通事故で両親を同時に亡くした美加を一年前に引き取り、夏休みの間、こうしておじさんについてあちこちと旅をしているらしい。学校が始まるとおばあちゃんのところから学校に通い、休みになるとおじさんについて手伝いをしている。
 少年は美加に「どこに泊まるの」と聞くと、「ここ」と答えた。よく見ると軽トラックの荷台の中に毛布が置いてある。荷物を降ろした後の軽トラックの幌の付いた荷台の隅は少女の寝床になるらしい。
 夜も9時を回ると、少年達はいくら祭りでも帰らなくてはならない。美加にバイバイというとそれぞれの家に帰っていった。
 少年は帰り際に「来年も来るの」と聞くと「わからない」と困った顔をして答えた。

 翌朝、少年はいつもより早起きをして夜店のあった場所に行ってみた。昨夜のにぎやかさは嘘のように静まり返っていた。広場にはもう幌のかかった軽トラックはなかった。
 少年はその場所に立ち止まり、今まで感じたことのない気持ちで呆然と立ち尽くていた。おそらく二度と出会うことない少女と一晩だけ友達になれたこと、そして翌日には消えてしまったことが少年に不思議な感情を沸かせていたのかもしれない。
 帰ろうとして、ふと下を見ると、小枝で書いたのか、地面に大きく、ありがとうと書いてあった。
 少年は何度も何度も読み返した。たった五文字のひらがなの中に美加という少女のすべてを探そうとしていた。
 恋という概念もまだ知らない少年は、その五文字に不思議なせつなさを感じた。
 帰り道、少年は神社の方角を振り返り、祭りの幟を見上げた。祭りの幟はひどく色あせて見えた。蝉しぐれが少年の頭の中で繰り返されていた。長かった夏休みもあと二日で終わりを告げる。そして来年の春に少年は中学生になる。
 


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