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2005/11/30(水) 坂道
 中学校へ続く長い坂道を急ぎ足で歩いていた。12月に入りめっきり寒くなったこの町は、そろそろ初雪をまつばかりである。吐く息が白い。
 今日は朝早く新聞委員の早朝会議があるためいつもより30分ほど早く家を出た。次の生徒会の選挙が今回のテ−マである。
 新聞委員になって2年目、入学したときなんとなく強制的に決められてしまったのだが、それをそのままひきずっている。
 新聞委員室に入ると、3年生が難しい顔をして座っていた。
「何かあったんですか」
「昨夜、うちの生徒が車にはねられたらしいんだ。それだけならいいんだけど、逃げちゃってんだよ、運転手が」
「・・・・」
「生徒はお前のクラスだよ、柳原恵子」
「えっ・・・・」

 恵子は幼馴染である。家はそんなに近くはないが、小学校の頃にはよく一緒に帰ったりした。中学になるとあまり話すこともなかったが、同じクラスということもあり時々はいろいろな話をした。
「柳原の怪我はどうなんですか」
「死んだよ・・・」
「・・・・」

 僕は学校を飛び出すと柳原の家に走った。まさかという思いである。柳原の家の前までくると僕は立ち止まった。家族とはもちろん面識があるし、小学校の頃はお昼をご馳走になったりもしたものである。
 しばらくは家の前にたたずんでいたが、僕は入ることができなかった。そのまま引き返すと学校のほうには行かずに、なぜか逆方向に歩き始めた。
 人の死というものを初めて知った。昨日まで生きていた人が今はいない。それは不思議な感じだった。死んだらどうなるんだろう、心はどうなるんだろう。

 この町には学校とは正反対のところに小高い丘があり、ちいさな公園ができている。僕は無意識のうちにその公園をめざしていた。頭の中に恵子の顔が浮かんだ。いろいろなことが思い浮かんでは消えた。
 公園に着くと枯れた芝生の上に座った。雪の降る時期なので遊具やベンチはすでに片付けられて、遊具を取り外した後の2メ−トルほどの高さのポ−ルが一本、ぽつんと真ん中にあるだけである。
 なんとなく学校のほうを見ていた。その頃にはもう何も考えてはいなかった。ただ学校のほうを見ていた。
 しばらくしてから僕は坂道を下った。冬枯れの木立が目に付いた。恵子が死んだという事実は間違いないにしても、一体何が変わったのだろう。何も変わってはいないのだ。ただ中学生の女の子が一人死んだというだけである。

 遠くから救急車のサイレンが聞こえた。そのとき目の前の冬枯れの景色が突然消えた。


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