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2005/05/24(火) 制服
今年もまた春がめぐってきた。新しい制服を着た高校生が歩いていると、なぜかまぶしくて目を細めてしまう。そしてそこに気恥ずかしさが伴うのは、たぶん高校生のときにやり残してきたことへの後ろめたさなのかもしれない。

高校生のとき、汽車通学だった僕は汽車に乗っている30分の時間が一日のうちで一番充実していた。好きな本を読んで、読書に疲れたら流れる景色を見ることもなく眺めていた。
 春には桜、夏にはひまわり、そして秋には紅葉と田舎の景色は汽車の窓から十分に季節を満喫できた。進学校でなかった僕の高校はどこかのんびりしていて、ある意味では幸せだったのかもしれない。
 高校生活の3年間は音楽と読書であけくれた。そしてこのときの読書癖は今も続いている。活字をある程度読んでいないと不安になるのである。小遣いの大半は文庫本に費やされて、他に図書室から借りてきてはむさぼり読んでいた。
 今のように古本屋が社会認知されていないころなので本は高かった。あのころ、今のようにリサイクルショップがあれば事情はまた違っていただろう。

 3年生の秋に自動車学校に通った。仮免許の試験の前後より急速にある女の子と親しくなった。彼女の名前は淳子といい、おかっぱ頭で黒髪のとてもきれいな娘だった。時間があるときの休憩室ではいつも声をかけあった。
「今日の実技はどうだった?」
という程度のとりとめのない会話ではあるが、いつのまにかお互いが意識しあうようになった。あとで知ったのではあるが彼女は僕と違う高校に通う同い年であった。
 自動車学校でももちろん卒業式があり、終わった後、近くの喫茶店でお茶を飲もうということになった。残念ながら二人だけではなく同期の卒業生の5〜6人でである。
 喫茶店に入ると、いきなり淳子が僕に聞いてきた。
「Wさんて彼女はいるの?」
しばらく考えた。いることはいる。しかし今は冷戦状態である。黙って考えている僕に淳子は何を思ったのか
「もしいなかったら付き合ってほしい人がいるんだけど」
どう答えていいのかわからなかった。同席のみんなを見渡すと、一人だけうつむいて恥ずかしそうにしているおとなしい娘がいた。
 そういうことか、、、すべては仕組まれていたんだ。察知した僕は淳子に言った。
「今の時期、彼女ができてもねぇ。高校を卒業したらすぐにお別れだし、お互いに傷つくだけだよ」
 なんだかへんな理屈ではあるが、そう答えるしかなかった。淳子は意外にもあっさりとうなずいて、その話は終わりになった。
 自動車学校を卒業してから彼女と会うことはなくなったが、卒業間近のある日、発車のベルぎりぎりに駆け込み乗車してきた娘がいた。淳子だった。
僕を見つけると、お久しぶりと笑いながら僕の向かい合わせに座った。聞いてみるとなんと汽車通学だという。僕のほうではまるで気付かなかったが、淳子は僕を毎日見ていたという。
 汽車がすべりだすと、彼女は急に黙りこくった。流れる車窓の景色の中に彼女の横顔が映ったとき、驚いたことに淳子もまた車窓に映る僕の顔を見ていた。一つ目の駅が近づくと淳子はさよならと言って席を立った。

 あれから27年、淳子と会うこともない。高校の卒業後、冷戦状態だった彼女とは完全に別れて、社会人として就職した。それからしばらくして専門学校に通うことになるが、淳子のことを思い出すこともなく年を重ねてきた。
 人生にはいくつものすれ違いがある。そのすれ違いに気付くことはあまりない。若い時にはただまっすぐに突き進んでいく。先に突き進むときに、失敗か成功かという選択肢は考えていない。ただ成功することだけを考えている。選択肢を考える時はすでに年をとっているのだ。
 遠い昔に忘れてきた思い出は、忙しい今では思い出すこともないが、どこかで大切にしておきたいという気持ちだけはもっている。もしもあの時、、、、と思うが、Ifは歴史には禁句である。道はたったひとつ、この道を進むより他に道なしである。


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