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2005/07/29(金)
猫に小判
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江戸時代の話である。 ある男がたまたま富くじにあたった。なに、たいした額ではない。それでも桶職人でしかない男としては2両という額はたいへんなお金である。 その夜はかくそうとしても笑いがとまらない。居酒屋で食べ放題に食べ、飲み放題に飲んで、長屋へと続く道を歩いていた。 するとそこに野良猫が一匹現れた。 男は、手元にまだ小判が一枚ある。一晩に飲む金額はしれている。一分もやればおつりがくる。袂に小銭をじゃらじゃらさせながら、猫を見ていた。 すると猫もまたこちらをじっと見ている。 「しっしっ、食いもんなんて持っていねぇよ、あっちにいきな」 追い払うように言ったが、猫はまったく動かず、あいかわらずこちらを見てじっとしている。 「気持ち悪い猫だなぁ、、」 男はそう思ったが、ふと冗談で 「おまえに小判を一枚やろうか、、はっはっは、猫に小判とはよく言ったものだ、価値のわからんものにやってもしょうがないが、ほら、猫に小判だ」 そう言って、袂に入っていた小判を一枚猫の前に放り投げた。 するとどうだろう、猫は迷いもせず、その小判を口にくわえたと思うと、山のほうに一目散に走り出した。 「ま、待て!」 思わず男は追いかけたが、もとよりぐでんぐでんに酔っ払っている男の足で追いつけるはずもない。 男はまんまと猫に小判を取られてしまった。
猫に小判と世の中では言うが、猫も小判の価値を知っていたと後ほど男は友達に語ったそうである。
あなどるなかれ、猫のずるがしこさ。
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