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2006/01/29(日)
少年
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少年はただ黙って池の水面を眺めていた。何が面白いのだろう。もう一時間もそうやっている。池の中には鯉も鮒もいない。池は鏡のように澄んでいた。さだ波ひとつ立たず、何の音もしない。 少年はまだ動かない。あたかも植物がたたずむように見事に自然の中に溶け込んでいる。遠くでは落葉松の林が霧の中にうっすらと浮かび上がっている。 突然カラスが鳴いた。少年は驚いたように振り返る。少年の心にはカラスの鳴き声が聞こえても、カラスの姿は見えない。少年はまたひとつの植物になる。
遠くでまた何かが鳴いた。少年はそのまま。落葉松もそのまま。池の水もそのまま。ただ静かなだけの昼下がり。
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