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2006/03/10(金)
アスファルト 10
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男はすぐに交番に入った。事情を説明し、調書を書かされた。 「ところで、あんた、そのカバンには何が入っていたんですか、会社の大事な書類とか?」
「800万円の現金です」
「ちょっ、ちょっとまって!・・あんたなんでそんな大金を持ち歩いていたんだね、この大都会でそんなものを持っていたらどうなるかは分かっているだろうに」
「はぁ・・・」
「まぁねぇ・・それが本当ならまず出てこないね、会社の書類とかならそのへんにでも捨てられているかもしれないが」
「ちょっと事情がありまして・・現金を持ち歩いていました」
「一応調書は預かっておくけど、、連絡先は書いてあるね、じゃもし似たようなものがみつかったら連絡するから、ただしカバンは戻ったとしてもお金はまず戻ってこないね、名前が書いてあったとしても」
「お願いします」
男は交番を出るとマンションに帰ろうとした。その時だった、交差点を渡っている人の群れの中に由里が歩いていた。男は急いだ。由里に追いつくと由里の肩をたたいた。
「ちょっと待ってくれ、後藤だよ!!」
びっくりした由里は不思議そうな顔をして振り返ると言った。
「あなたは誰ですか?」
「あの時肖像権を800万円で売った後藤だよ、覚えていないのか?」
「失礼ですが、人間違いじゃありませんか、私は後藤さんなんて人は知りませんし、だいいち肖像権?、800万円って一体何ですか?いきなり失礼でしょ」
由里は怒ったように言い、その場を離れようとした。
「待ってくれ!!俺はあんたに肖像権を売ったおかげで仕事が見つけられない、あのときの800万円は返すから・・・」
そういいかけたとき男は手元にすでに800万円がないことに気がついた。なんてことだ、やっと由里を見つけたというのに、今の俺にはそれを買い戻す金がない・・・男はぐったりとうなだれた。 由里はもう人ごみの中に消えていた。
つづく
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