|
2006/03/05(日)
アスファルト 5
|
|
|
男は自分のマンションに帰ってきた。前の女房との離婚の際に、慰謝料やら養育費やらと請求されて、残ったのは唯一このマンションだけだったのだ。 これが俺の唯一の財産か・・とつぶやくとマンションの鍵をあけた。何もない4DKのマンションは男一人には広すぎた。いずれはここも売って小さな一間くらいのアパ−トに引っ越そうとインスタントコ−ヒ−をブラックで飲みながら漠然と考えていた。 翌日男は、いつまでも無職でぶらぶらしているわけにはいかないと、職業安定所を訪れた。失業保険をもらっていくには、形だけでも仕事をさがしているふりだけはしなくてはいけない。しかし今日は本気で仕事を探そうと考えていた。 職業安定所の前のまで来るとしみじみとその看板を眺めた。職業安定所では体裁が悪いのか、ハロ−ワ−クと書かれたその看板は、いかにも暗いイメ−ジをなくすため明るいイメ−ジで仕上げたという意図がありありと見えた。 男は中に入るとすぐに求人票の場所へ行った。事務系と書かれたホルダ−にはほとんど年齢制限があることはわかっている。背に腹は変えられないなぁと別のところへ行き、なんとなく手にしたのが鉄筋工の仕事だった。長い間肉体労働をしていない男は、こういう仕事ができないとわかっていたが、賃金の高いのに思わず眼を奪われた。一日日当が2万5千円で昼食の弁当が付くというのである。もちろんこういう割のいい仕事は、保障はもちろんなく、工事が終ればそれで解雇である。 次に手にしたのが夜警の仕事だった。夜の8時から翌朝の8時までの勤務。社会保障などもすべてついている。給料は平均30万円、年齢、勤務日数、経験により優遇、とある。 これだ、男はその求人票を持って受付へ向かった。
つづく
|
|
|