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2006/03/06(月) アスファルト 6
 翌日男は履歴書を書いた。昨日すぐに職安で紹介された会社に行き相談した。明日履歴書を持ってすぐに来てくれということである。ちょうど一人欠員が出たので明日からすぐにでも勤務についてもらえるとありがたい、履歴書などはどうでもいいが形だけはちゃんとしておかなくてはいけないからと事務の人は言ってくれた
 男は履歴書を書き上げると、右上に写真貼付とあるのに気が付いた。そうだ証明写真を撮らなくてはと近くの小さなカメラ屋さんに出かけた。

「はい、それではカメラのほうを向いてください、いきますよ」

 男は言われるがままにカメラを正視して写真を撮られた。写真が出来上がるまで5分と言われ、待っている間にショ−ウィンドウに並べられたカメラを見ることなしに眺めていた。すると並べられたカメラはほとんどがデジカメである。こういう時代なんだなぁと眺めていたが、5分はとうに過ぎているはずなのになかなか写真を持ってこない。

「まだですか〜」

と男は中に向かって声をだしたが、返事もない。しばらくしてやっと現れたカメラ屋の店主は申し訳なさそうに

「すみません、撮影に失敗したみたいです、まことに申し訳ありませんが、もう一度撮影させていただけませんか」

「おいおい、それでもプロかよ、仕方ないなぁ」

 男はしぶしぶまたカメラの前に座った。店主は今度はカメラをデジカメに変えて撮影した。撮影してすぐにカメラ後部の液晶の画面で確認したらしい、えっ・・・とびっくりしたような声を上げた。

「そんな馬鹿な・・・」

「どうかしたのかい?親父」

「顔だけ写っていないんです、そんな・・・」

 男は店主のデジカメを覗いてみた。驚いたことにバストアップの体だけは写っているのに、顔が真っ白になり輪郭がぼやけているのだ。店主はもう一度でデジカメで男を手持ちで簡単に撮影した。結果は同じだった。

 男はカメラ店を出ると急いでマンションに帰った。まさか・・という思いはあった。たぶん他の写真館に行っても結果は同じだろう。
 マンションに帰るとすぐに自分の持っているデジカメで自分の顔を映してみた。結果はまったく同じであった。
 <肖像権を売った>このことが頭に残っていた。あの時はなんとなく800万円に眼がくらんで売ってしまったが、もしかしたら自分はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。

つづく


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