|
2006/04/19(水)
人間に与えられたたった一つの幸せ
|
|
|
地元の新聞に掲載されたこともあり、あちこちで猫はどうなりました?と聞かれる。そのたびに死にました、と言っているうちに、こちらも麻痺してきたのか悲しみが薄らいでいく。 ある人が同じように聞いてきた。そして同じように答えた。その人はしばらく黙っていたが、ぽつりと僕に聞いてきた。
「神様が人間に与えてくれたたった一つの幸せってなんだかわかりますか」
僕はわからないと答えると、その人は言った。
「忘れるということです。人間は忘れることができるんです。だから生きていけるんです」
僕は何も言えなかった。あまりにも真実をついているからである。この人は、若くして夫を亡くし、女でひとつで子供を二人育て、野良猫に近所には内緒でえさをやり続けて何十年の人である。この人の言葉は重い。何も言えなかった。そしてこれ以上の慰めの言葉もないと思った。
|
|
|
|