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2006/08/11(金)
てんとう虫
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先日、ひょんな事から若いときに土方をやっていたトンネルを走った。懐かしかった。 あの頃、はじめて就職した織物関係のデザインの仕事の会社が倒産して、僕は遊んでばかりもいられないので日雇い的に土方の仕事をしていたのである。 このトンネルはかなり長いトンネルで、土砂を運ぶのにダンプを運転していたわけだが、トンネルに入るときはずっとバックで入るために、首が痛くなってくるのだ。途中に横穴があり、そこから一部外へ出られるようになっていて、休憩時間になるとそこで休憩をよくした。トンネルの暗闇から一部光が漏れている場所は、地獄から天国への通路のようであった。 その頃僕は、若さだけがとりえであり、将来のことも何も決まっていなかった。ただ若さに任せて金を稼ぎ出すことが全てだった。あの頃の気持ちを今思うと、自暴自棄というのだろうか、投げやり的な気持ちで生きていたような気がする。 季節は秋であった。もうすぐ長い冬に閉ざされるという時期、僕はいつものように休憩時間にその天国への通路に向った。ダンプから降りて、煙草を口にくわえてふと外を見ると、そこに何か細かいものがうじゃうじゃと張り付いていた。一瞬僕は何が動いているのか分からなかった。しかし、目を凝らしてよくみると、それは異常ともいえる数のてんとう虫だった。 何千匹いるのか分からないが、とにかくびっしりとこびりついていた。これから冬を迎えるための避難場所としてここに集まってきていたのだ。 僕はなんとなくそのてんとう虫を見ていた。うじゃうじゃと動くてんとう虫を見ていると、もしかしたら僕達人間もこんなものでしかないのだろうと思えてきた。しかしそれは自分達人間を卑下したのではない。むしろ逆である。改めて生命力というすざまじさを見つめなおしたというべきだろう。 そのとき、たぶんいろいろと考えたのだろうが今はそれを思い出せない。ただ、その異常ともいうべきてんとう虫を見てから、なんとなく安心したのだけは思い出すことができる。 あの時から28年は経ったわけである。長いトンネルを走りながらふとそんなことを思い出した。秋の木漏れ日を浴びたてんとう虫の群れ、あの頃たぶん自分もその一匹に過ぎなかったのだろうと。そして今も・・・・。
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