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2005/10/08(土)
「愛しているのに憎んでる」
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とても個人的な話を。 読む方にとっては、凄くどうでもいい話になってしまいそうですが。
私が人生で二回目にこれが恋かと思ったのは、夢の中です。 けれど目が覚めるまでは私にとって、本当の人生だったのですけれど。 夢の中で、私は即位したばかりの少年王でした。 姿は、少年に見えた幼少時の私に近いのであろう背の低い子供。 国は小さくて現代的な、どこか荒れた窪地。 妻となる少女がいて、小さな城があって、国務に慣れようとしていて。 両親は見当たりませんでしたが、宰相なのであろう人がいつも身近に居ました。 その人は背の高い青年で、力の強い魔術師なのです。 私はその人を尊敬してはいたのですが、気が合わなくて、よく怒鳴りつけていました。 けれど決して怒鳴り返されはしなくて、ただ見下ろして薄く微笑むばかりなのです。
遠征に行ったり、敵を打ち倒したりして、国民に歓声を浴びる。 自分で言うのもおかしな話ですが、頑張っていたと思います。 でも、宰相は何をしても薄く笑っているばかりで何も言わない。 認めさせてやりたくて、段々不必要な遠征までし始める。 否定されている訳でもないのだけれど、何としても向こうから認めさせたい。 心から尊敬させ、自分を認めさせてやりたくて仕方が無い。 妻を愛している自分がいて、それは確かなのに心配されても止まれない。 色々な事をどんどん遣り遂げるのに、達成感は無くて焦るばかり。 私は、酷く空虚で遣る瀬無い気持ちになっていくのです。
国民の前に立っていて、ふと横を見ると宰相が冷笑している。 妻と話していて、ふと視線を感じて振り向くと宰相がいる。 この時点で、夢を見ているはずの私が気付いてしまうのです。 ああ、私がこの人を嫌いになることは一生無いんだ、と。 少年と連動している意識の一部が、上空から二人の視線の邂逅を見ている。 彼は宰相から目が離せなくて、どうしようもなく追い詰められている。 その顔をずっとみていたい、声を聞いて話したい。 けれど、実際には接すれば接するほどに憎しみが増していく。
それから夢の中で、私は一生を過ごしました。 宰相は姿の変わらないまま老いて死んでしまって、棺に入れられ埋葬される。 それを私は冷静に看取って、泣くこともなく心も平静なままでした。 私も姿は少年のまま老いたらしく、妻に先立たれて自分も寿命で死にます。 その最後の意識で、「ああ、あれの顔が見たいなぁ」と思うのです。 冷笑したままの顔と、同時に憎しみも思い出しながら、ああ、会いたいなぁ、と。 喉が渇く様な自然さで、けれどそれよりももっと強い渇望で。
夢の中の意識が薄れて「死んだ」瞬間、目が覚めました。 怖くない夢を見て目を覚ましたのはそれが初めてで最後です。 私は暗い中で夢を見ていた事を知りながら、宰相の顔を思い出しました。 すると夢で体験した憎しみや葛藤が全部自分のものになってしまったのです。 夢の中の事を細部まではっきりと覚えすぎていて、心が半分向こうにある様な感触でした。 只の夢を思い出しただけのはずなのに、余りの喪失感に涙が止まりませんでした。 そして私は、ああ、これが一体の愛と憎しみなんだと思ったのです。
夢の話なんて読んでも、あまり面白く思われる方はいないかもしれません。 けれど私にとってその夢は一人分の人生であり、今では私の一部なのです。 文字で表せる事では有りませんが、その感情は本当に辛くて苦しいものでした。 そういう愛も有るのだと、私は本当に思ったのです。 「愛してるのに憎んでる」は、矛盾していません。
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