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2005/06/11(土) 最後の、イ・ウンジュ。
遂に、遺作である
「スカーレット・レター」を観に行く。

この映画は、
「シュリ」や「八月のクリスマス」など
主演作をすべてヒットさせる男、という異名をとる
ハン・ソッキュの2年ぶりの新作でもある。

韓流ブームを本格化させたのは
「冬ソナ」だったかもしれないが
90年代にその扉を開き、準備してきたのは
一見地味で決してハンサムではない、ハン・ソッキュであった。

久しぶりに映画のパンフレットというものを買って
ハン・ソッキュのインタビュー記事を読むと
やはりこの人は、大変まじめな人であることがよく分かる。
職業としての俳優、というプロ意識が強く感じられる。

インタビューの中で、彼は重要な指摘をしている。

出演作のほとんどが、監督のデビュー作・もしくは2作目
ということに関して「意識的にやってきたことです。
新しい韓国映画に出たいと思っていたところ、同時期に
新しい映画精神を持った監督たちが登場しました。
これからも若い監督たちと組んでいきたいと思っています。
でも同時に、韓国映画界には5作以上の作品を撮っている
監督がとても少ない。1作か2作だけ撮って消えていく監督が
あまりにも多いことは、危惧すべきことだと思っています」

・・・と、長々と引用したが、ハン・ソッキュだからこそ
指摘できるこの事実。この人は、成功を収めつつも
苦い経験を色々と重ねてきていることが感じられる。

と、ハン・ソッキュのことばかり書いているが
実はこのインタビューの中に、私がなぜこれほどまでに
イ・ウンジュに傾倒しているのか、その理由の一つが
記されている。

正直、メイクや髪型やエステや整形や、その他もろもろ
色々なものが発達して、女性が自分を魅力的に見せる
ことに長けてきて、また時間とお金を使いまくる現在、
美人である、ということには、それほどの価値は無い。

美人なんて、いくらでもいる。
韓国映画界にも、イ・ウンジュより美人はいるだろう。
だけど、彼女のように、すべての動き・表情・視線に
確かに見えて、ふっと消えていきそうな不安定さと、
謎を湛えた女優は、そうそう見つかるものではない。

ここで、演技の極意の話になるが
以前にも書いたと思うけど、演技の極意は
はるか昔に世阿弥が言い当てている。
「離見の見」である。

僕はこれが
「ノリつつシラケ、シラケつつノル」と同義であり
「コントロール・オブ・アウト・オブ・コントロール」
と言い換えることができると考えている。

イ・ウンジュのことが書きたいので、詳しい解説は抜きだ。

アウト・オブ・コントロール。
自分をコントロールできない状態に、自分を追い込む。
映画の中で俳優は、人生で初めて直面する事態に
まっさらな状態で向き合う人間を演じなければならない。

どうするか。想像する。
今までの自分の体験。誰かの体験。小説の中の人物の体験。
その人物の設定について考える。
置かれている状況について考える。
あるいは、全く関係の無さそうなところから、ヒントを得る。

そうして、さまざまな時間を内に秘めて
舞台に立った時には、すべて忘れる。
忘れて、まっさらな状態で事態に向き合う。
自分を、制御不能な状態へと放り込む。覚悟を決めて。
そして、制御不能になっている自分をもう一人の自分が
1〜2メートル上空から眺めて、冷静に演出する。

こういう作業ができてこそ、役者だと思う。
そういう役者を見たいと願って、芝居などやっている。
正直、役者がそういう状態になれる環境さえ作れれば
それさえできれば、作品は完成したも同然なのだ。

ハン・ソッキュは、そのことを分かっている。
そういう仕事をしたいと思っている。
そして、相手にイ・ウンジュを選んだ。
彼女にならできる、と分かっていたからだ。
「地獄を見せよう」と話し合い、撮影終了後には
「これでもう、どんな役が来ても大丈夫だ」と
話し合っていたという。

彼女は、自分自身を制御不能の領域に
投げ出すことのできる、力のある女優さんだった。
けれど彼女は最後には、自分が飛び込んだ
アウト・オブ・コントロールから帰って来れなくなった。

「一人の女優が誕生して、僅かな期間でこれだけ大きな
ステップを踏んで成長するのは、とても稀なことです。
だからああいう結果になったことに対して、今はただ
とても残念です、としか言葉が見つかりません。・・・
今でも、私自身の中に、悔いの気持ちが残っています。」

・・・つづく。


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