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2006/05/29(月) 美術館の遠足、最終回。
以前にこの日記でも紹介した
関西在住の音響アーティスト
藤本由紀夫さんの作品展
「美術館の遠足」の最終回が開催された。

素晴らしく懐の広い西宮大谷美術館と
藤本さんがタッグを組んで
10年間、毎年一日だけという約束で
美術館全施設を使って開催してきた。

私は藤本さんと少しだけ縁があって
最初から、この作品展に通ってきた。

最終回というからには恐らく
これまでの全作品を俯瞰できるような
ものになるのではないかと予想していたのだが
それは完全に間違いだと分かった。

会場に到着してみて
私は虚を突かれた思いがした。
作品がほとんど無い。
作品の無い美術館の内と外を
観客はただうろうろするばかりである。

けれどやがて、
敢えて作品を最小限に絞り込み
「何にもない場所」を出現させた
藤本さんの意図がじわじわと伝わってきて
なんともいえない感慨に包まれた。

藤本さんの作品は私たちに
「耳を澄ます」ことを要求する。
そうしなければ感じられない音の世界を
私たちに気付かせてくれる。
そんな作品に、私は出会ってきた。

10年目の今回
今まであったはずの作品が無い。
けれども私たちは、耳を澄ます。
すると聴こえてくるのは、生の環境音である。

サウンドスケープ。
現代の日本人からは失われてしまった
音環境をリアルに体感する能力を
自分の中に発見する、その悦び。

聴こえる。
作品は無いが、聴こえる。
いや、この何も無い状態こそが
今回の作品なのだ。

最終回に至って、
作品はもっと広い場所へと
美術館を越えた日常世界へと開かれた。

今回初めて来場した人には
その意図は掴みにくかったかも知れないが
「世界は様々な音に満ちている!」
「なんて面白いんだ!!!」

という、アーティストが体で感じた悦びを
観客が共有できる仕掛けを提供してくれた
藤本さんと西宮大谷美術館に感謝したい。

もうこんな催しは二度と無いかもしれない
と思うと、寂しい気持ちが押し寄せてくる。

けれど、ゆったりと耳を澄まして過ごしている
多くの観客の姿を眺めていると、
この中の誰かがまた、きっと何かを始めていくに
違いないという希望を感じることも出来た。

私もまた、日常に埋もれて
音に鈍感になってゆくのだろう。
だけど、年に一度は、音に敏感になる日を作ろう。
そう思いながら、夕暮れの中、帰途についた。


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