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2004/10/14(木)
嗅覚の達人
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先日読んだ『日本凡人伝』(猪瀬直樹著)に興味深い事が書かれていた。 この本は、山口百恵に《億ション》を売った不動産会社の社員、ウォークマンを 開発したソニー社員など、12人の“凡人たちの非凡な人生”を著者がインタビュー して書き起こしたもの。 ちなみに、この本は昭和58年に出版されたものなので、ウォークマンを開発した 黒木さんは今では有名だったりと、ノンフィクションとしての古さは否めないが、 それでも今読んで面白い作品です。
この中でボクが一番印象に残ったのは、「キョーフの臭才感覚」と云うタイトルで 紹介されている、資生堂・香料研修室主任研究員(肩書は当時のもの)の上野山重治さん。この人、肩書からもわかるように嗅覚が鋭く、ソバ屋の天ぷらを揚げる油が古いか新しいかが匂いで判り。魚の鮮度(揚げてあっても)なども匂いで判ると云う。ウィスキーでも、ピュアモルトが多いのか、それともそれに似た香料を多く使ってあるのかが匂いで判るらしい。
その他、面白かったのが各国の匂い。 海外から日本に帰ってきて、空港に降り立った時に魚の匂いがするらしい。 日本の匂いは《魚》だそうな。フランスのパリは《葉巻とチーズ》、ドイツは 《針葉樹》、イギリスは《石炭》と、その国特有の匂いがあるという。 また、あるアメリカ人が、日本のケンタッキー・フライドチキンは魚臭いと言って いたという。これはニワトリの飼料にイワシなどを使っているからだそうだ。
で、ボクが非常にショックを受けた部分を少し引用してみます。
《 通勤電車で、いつも一緒になる大学の先生がいましてね。「あっ、どうも」なんて 肩を並べて吊り革につかまって世間話をする仲だったんです。ところがね、ある日、 妙な臭いがするんです。なんというか、やっぱり、腐敗臭というんでしょうね。 臭かったんです。それで気にとめてはいたんですけれど。でも、朝の電車はあわた だしいですから、「じゃ、また」なんて別れて。それっきりです。 次の日から、先生の姿を見かけなくなりましたが、さして気にもとめていませんで した。ほら、通勤電車って、時間がひとつズレると何日も顔を合わせないことって あるでしょ。一ヶ月ほどたって、気になって問い合わせてみたら、亡くなったって いうんです。詳しく訊いてみると、あの腐敗臭を感じた直後に入院なさったそうで す。胃癌です。もうかなり悪くなっていて、あちこちに転移して手遅れだったよう ですけれどね。 そりゃ厭な気分でしたよ。人の死期がわかってしまうなんて。私の鼻が、無意識 のうちにキャッチしていたことが、そういうことだったなんてね。仕事を離れても、 ついて回るんです。いろいろと妙なことが……。》
これを読んだとき、ボクの背中にイヤな汗が流れた。
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![](/user/nitobesan/img/2004_10/14.jpg) |
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