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2004/09/30(木)
拭うには大きすぎる翼
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めったに立ち止まることのない、いつも通る橋の上を歩いている。西日に変わりつつあるなか、うすらまぶたを伏せて立っているのか歩いているのかわからない速さで歩いている。その時、その衝撃さが感触の一点をさす。身体がギョッとした反動に目がいく。ソラトブモノノアシが乱暴にわたしの腕を掴んでいる。矢先のような爪が皮膚にじんじん食い込んでいくのを見つづけている。がつりとした強大な力に鷲さを感じ、その鷲掴みされているところから気づかれないようジグザクに視線を描きながらそのものの全体をちらりと見る。鴉だ。わたしの顔をすっぽり覆うほどのうるっとした黒い翼は優雅な風を起こす扇のように動いている。秩序よく綴られた羽毛同士が擦れあって無数の音を生みだしている。ばさりばさりと羽をたたむたびに、さはあさはあと風が頬にあたる。くちばしは合わさることもなく上下もげそうにひらいているが、言葉はおろか鴉の声さえ聞えない。でも、くちばしあたりで何かをたしかにいっている。 空と語りあっているかのように、そのかっと見開いている眼球は空に定まっている。痛そうな眼球が目にやきつく。
わたしは色づいているであろうひろがりの空を、ソラトブモノがひろがりの空へと飛んでいく姿を見ることなく「何か伝えにきた、話さなきゃ」という声で目が覚めた。感銘さと腕の感触が残った身体に太陽がうっすらとかかってくるなか、そのわけありの寝相に笑ってしまった。右腕が軟体動物のような格好でころがっていて通常に戻すのに動かせばシビレが起きてこしょばい。あっさり力尽きて、また目をつむったがもうどうしてもこそばゆいのでなくなく腕に力を流た。
《今日の体力はこれで終了しました。》というような朝だった。
ソラトブモノが外に閉じ込められてしまってかえれないのだと、数日後に思えた。
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