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2008/03/20(木) 起りえる全体の目的地
 道をたずねられることが多いと思う。
イヤホンをしていようが、胸騒ぎに目を凝らしていようが、信号待ちの自転車上は最強にうかがわれる。
ある日も行きすぎた街角をなんとなく曲がろうとしたとき、「京阪淀屋橋駅はどこですか?」と訊かれた。

いつものふと止まってしまうような「ここはどこだったっけ」とはちがう、現在地のはっきりしないさま。
間隔のバラバラさ。135°向き変わり「あっちの方」と、10時の方を指さしたまま、彼女を向こう側に渡せないまま、そのなんとはなしなことばのまま別れた。痛恨。せめて「歩いて20分かからないぐらいですよ」ぐらい言ってよ。

あれとあっちとその建物を輪郭のつらなるエッジで、どう差せばよかったのか。
どの辺りの街角と街角を結節すればよかったのか。死角と距離感。
いろとかたちと流れと起伏の分布、その熱分布のような地理感はなんだろう。地図をひろげる。

現在地だった渡辺橋南詰交差点から京阪淀屋橋駅までを組み合わせる際、大同生命ビルを1等に並べるのは回避すべしものなことがはっきりした。

「道なりにまっすぐ行くと肥後橋という橋が出てくるので、それを渡ってから左です。そうすると、ちょうどその水辺沿いを歩くと5,6分かな、京阪淀屋橋駅が見えてきますよ。」そう言おう。あるいは、「この橋のたもとに、左手にね、交番がありますよ」そう言おう。

大阪府立体育会館付近で「日本橋(でんきのまち)」と「難波ロケッツ」と「闘魂ショップ」があった。
34°40'07.70"N,135°29'48.00"Eで「アメリカ村」と「マックスバリュ」があった。
元町2交差点の信号待ちで「携帯電話を貸してください(というような英語)」があったりした。

たずねられたものを思いかえしていると、覚えるべきものはいったいなんなんだろうと思う。
だって、賽は道をたずねられるように投げられるから。

まず、お堀のような環状水路になっているあたりの橋を点呼してみようと思う。
ここぞというところの地面すれすれに立って四面体になってみるとか。

2008/03/18(火) おもちゃの地図、あるいはひとつの境界標
(<極秘>は無人島ですらなかったなんて!)


ルイス・ファン スヴァーイ&ジーン クレアの『あなたを見つけるこころの世界地図』の図法は《主観投影図法》。縮尺は《想像不可能尺》。経緯は12ヶ月であらわされていているような地図で、ようできたあるんです。

たとえば、<意外な事実>と<関連>は鉄路で結ばれているのですが、<意外な事実>から<関連>を通るときは<連想>経由の<側線>になっていて、<関連>から<意外な事実>を通るときは<思索>経由の<脱線>になっています。<意外な事実> <関連>間は、道路でも通えるようになっていて、その場合、<きざし>と<仮説>を通過するようです。おもしろい。

考え込んでしまうのは、主観や経験や概念や感情や日常をあらわすこの地図なかに<家> <裏庭> <退屈> <墓地> <不在> <机> <抱擁> <命令> <弱い> <散歩> <神話> <特性> <空模様> <もうひとつのチャン
ス> <変化中の駅> <流し目を送る> <時間> <外国> <永遠> <源> <指先> <ランデヴ> <いつものこと>、などなどは載っているのに<束の間>や<窓>や<わたし>や<場所>や<本>や<光>や<手帳>や<夢>や<趣味>や<透明>や<不図>や<合図>や<祈り>や<サイズ>や<星>や<分類>などは載っていないのです。

いくつかのものは、地図に載らないほどのサイズなのかもしれないし、森や砂漠や境界線や建造物やそのへんやあのへんの湖に隠れているのかもしれない。別名で載っているのかもしれないし、焦点が合わない眼鏡をかけているような状況なのかもしれない。それに、画きこんでいってこその地図という付き合い方もあるのだろうけれど、ちがうんだ。(おお、<ちがう>が載ってる)

古い単語なのに。
<現在>や<あの世>、<あっち>や<こっち>、<ここ>や<あちら>は載っているのにってさがした。

<ワインをもっと!>や<日曜日>が載っているなら<ナイトキャップ>や<自転車上>が載ってもいいよね…なんて思うところどうし、楽しいんですけれど。


(<秘密>は島になっています。)

2008/03/08(土) 街の索引
高度を妨げるなにものもなく放たれているほそやかなフオアを見送るような日は、こわれてもよい仮の世界




「とつぜんにぼくは信じた
貝いろのあなたのめのむこうにも
やはり市街電車のはしる町があると

ひっきりなしに窓が鳴り
少年たちの約束が
花の本のように開いたり萎んだりする町があると」天沢退二郎

「坂道をあなたの声がぴやっぴやっと馳せおり
 てきては
ガラスのようにぼくを吹きぬけた
電車がはげしくぼくを揺すりかっきりと道を
 曲げた」天沢退二郎
 
「さかさまの空の昇る眼のしたで
落ちない落ちそうで
落ちない氷のなかで光の
かさならない眉が
まがる」天沢退二郎

「冬の日雲がそれそのもののように垂れ下がって地面すれすれに流れている街がいい」
天沢退二郎

「街の上方を真空にして、ガンマ線にでもなって飛び出して了いたいのでしょう。」稲垣足穂

『震える物語』ジャン=フランソワ・リオタール
『夜の魂―天文学逍遥』チェット・レイモ
『時の主人』クリストフ・バタイユ
『地上の迷宮と心の楽園』コメニウス
『風の裏側』ミロラド・パヴィチ
『また終わるために』サミュエル・ベケット
『アルド・ロッシ自伝』アルド・ロッシ
『もうひとつの場所』ル・クレジオ
『コーネルの箱』チャールズ・シミック
『始まりの喪失』ボート・シュトラウス

「地図製作者は地図上の空白を「スリーピング・ビューティーズ」(眠れる美女)と呼んでいる。」
アニー・ディラード

「地名論の世界」鈴木博之
「こわれてもよい仮の世界」荒俣宏

2008/03/03(月) とじこみ帳と背中にチャックと
その日も枕元でページを進める。一行一行が眼に流れるにもかかわらず意味が聞えないその眼は親密に行を追うのをやめなかった。そのままページが進むにつれ一行一行が次々と背景に入っていくようすに何をしていたのかと、ふと思うままにページを見渡す。これぞ無我夢中というものだと冗談めいたことを思いつきながら読んでいた本にはこんなことなど書かれていなかったと分けた、さっきまで書かれていたことを確認する気の気配をしずめる。いまのところ、いまからの行の予測を読んでいたんだなということにして切り上げる。そうして部屋の明かりを残らず消しておやすみなさいなのところだけど、寝たり覚めたりしているいつものことに立ち会えたらなと思い、語り掛かる。

2008/03/01(土) えりまわしで回ってきた仕事
「ただいまー」男の子が帰ってくる。
 どこの子だろう。「おかえりー」

 黒いランドセルに白い巾着袋とバレーボールをぶらさげている。めがねをかけていてふくふくとしていて目がつり上がっていて全体的にバレーボールが似合わない、小学3年生ぐらいの男の子。

 夕暮れ時。ここはわたしの家だとそろそろ話さなきゃ、そう思っているとずかずかずか急ぎ足で入ってくる人たち。

ざっと5、6人のバレーボールユニフォームを着た男の人たちが玄関からずしずしと入ってきて、大きい声で男の子を呼んでいる。男の子を迎えにきたらしい。

バレーボールユニフォーム姿の男の人たちの中にバレーボール部の美和ちゃんがいて話をする。
「ひさしぶり」だとか「前はね、ここの一室をバレーボール部が部室に使ってたんだよ」とか。「だから、男の子まちがえてきちゃったんだね」といったような。

 みなさんが玄関をぞろぞろと出て行くので、マンションの下までお送りしようと一緒にエレベーターへ乗り込む。
その中の男の人が密度にまぎれたわたしの右手を握りはじめる。

誰だと顔をさぐる。ひとりだけこっちを見る顔があり、みたことがあるようなみたことがないような髪形と背の高さをしていた。手から生気を抜くことだけがわたしにできることだったけれど。

 下に着くと、西武カラーのバスがマンションに横付けされている。
 急いでたんだね、バスに乗り込むバレーボール団のみなさんに手を振る。
 
「女性はあちらになります」

 乗り込もうとしている美和ちゃんがバスガイドさんに止めらている。
「…あちら?」そんな話し声がきこえてきたので、美和ちゃんにはっきりと聞き取りに行こうと近寄る。すると美和ちゃんがそのことについて鉄砲玉のように話し始めたのであいづちを打ちながら座る。

「ところで美和ちゃん、ここはどこ?」

 なんだか暗く、狭そうな空間に自分がいると気づいたわたしはバスに乗り込んじゃったのかと諦め半分にたずねると「もうそろそろ来るからちからいっぱい構えて!」と、美和ちゃんが声を張り上げるのでとっさに身を固めた。
 あ、これは…トンネルにでもはいったのかな、それの5倍はかるくある圧だ。圧がちぢむ。トンネルの5倍は…自覚的でない声がよじれる。5倍は…空間ごと詰まっていき、前髪を、身動きを、何層にも巻き込んで繰り返す、くらが

「美和ちゃんいまのいったいなに?このバスどこで停まることになってるの?家の戸もあけっぱなしだし、財布も持ってきてないし連絡も猫が…」
「次からはね、頻繁に来るよ」

「美和ちゃん、ここはいったいバスのどこなのっ」

こわばったまま解けないわたしの身体に美和ちゃんが話かけている。
「もうすぐバスが停まるところだよ」

 降りなきゃ。ここまでどうやって迎えにきてもらおう。こんな辺鄙なところに。
人がいたらまだいい状況だと首を持ち上げあたりを見回すと、月のあかりがいつもの夜を知らせてくれていた。

景色が、見覚えのある道路が目にうつる。知ってる。近い、家まで歩いて帰れる距離。ぐったりとしたわたしを立ち上げ、道路へ放り立つ固い身体に美和ちゃんは、なにもなかったようなほほえみをして、道の駅の売店へ行くといい手を振って別れていった。

 わたしは、そのぐったりをかかえ家路を急ぐ。痛い。ずきずきする。あれはいったいバスのどこだったんだろう。美和ちゃんけっきょくおしえてくれなかった。痛い。ひりひりする。なんだったんだろう。あれはバスの大きな荷物を入れるところだと思うんだけど。

 マンションの前に着き、肩で息を吐き階段を上っていくと猫が二階まで出てきていた。跳びはねる猫をかかえて玄関まで帰ってくると、のりちゃんが訪ねてきている。

「わっ、のりちゃんどうしたの?」
「あのね、えりまわしで仕事をまわしたの。それでね、」
「なんの仕事?仕事らしいことなにもしてないのに、あれのどこが仕事だというの?終始まるまっていただけだよ!」

 のりちゃんがなにか説明をしているけど、痛くて遠くてぜんぜん聞こえない。
 なんだか申し訳なさそうにしていたけど、またね。痛いんだ。
 手を挙げて別れた。

 あかるい居間を通り過ぎ、部屋に入っていちばん痛むひざまであてがわれているアームウォーマーをめくる。
白いさらさらがこぼれ落ちる。生傷なんていつついたのだろう。すり傷から切り傷からその膝頭一面にたくさんの砂が付着していた。


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