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2004/11/13(土)
「舞姫」後編 ―ジイちゃん、ぼくは汚れてしまいました―
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ぼくは“謎の踊り子エリカ”の控え室の前に立ち、誰もいない部屋の中の様子を覗き見ていた。 エロい歌詞の「溢れちゃう...BE IN LOVE」の演奏が終わり、続いてクイーンの「BORN TO LOVE YOU」が脳天を突き刺すような大音響で鳴り響く。 しかし、なんなんだ、この選曲は…?一貫性がなさすぎるぞ〜。 ベッド、テレビ、テーブル、小型冷蔵庫・・・洗濯機以外はひと通りの家財道具を置いてある。 床から天上まで届いている巨大な鏡には圧倒されそうだなあ。
そのとき、突然「わっ!」と声がすると同時に、ぼくは両肩のあたりを後ろから思いきり突き飛ばされた! 後ろに人がいたなんて、この大音響の中では全然気づかなかった。 ぼくは無防備なまま突き飛ばされたから、床に這い這いをする格好で部屋の中へ・・・。 立ち上がりすぐに振り返ると、そこには真っ赤なガウンを羽織った若い女の人が立っていた。 両目の位置が離れているせいか、ちょっとだけ安室奈美恵みてえな顔だけど、どこかヘンな感じ。 それもそのはず・・・なんと!なんと! ガウンの下はスッポンポンで、おまけに前のヒモを結んでないっ!! とゆうことは、つまり・・・オッパイも下腹部もあらわなわけで・・・。 「目のやり場がねえや」なんて思いつつ、それでも視線はしっかりとガウンの下の白い裸体に釘付けになっちまう。
もう心臓BakkuBakuで口から飛び出してきそう。 とりあえず仕事で来ているわけだから、ぼくは気を取り直したフリをする。 「あっ、宅急便です。すいません。部屋の前で少し待たせてもらってました」 と、帽子を脱いで挨拶すると、それを見てエリカさんがかすかに微笑む。 「ホントに?階段のところからジッと見てたんだよ」 エリカさんはそういいながら、部屋の中に入ってくる。 そして、後ろ手にドアを閉めると、驚いたことにロックしてしまった〜ッ!
「なっ、何する気ですか?」 「若い男の子を食べちゃおうかなあって思ったんだ」 「あっ、いや・・・ぼくはこうゆうの初めてで、痩せてるから食べてもおいしくないんじゃないかと・・・」 「フーゾク嬢が初めてだってこと?キミ、いったいいくつ?」 「いちおう24歳です」 「ホントに?高校生ぐらいに見えるね」 「高校生がクルマを運転するバイトなんかしませんっ!」 「それもそうね」
エリカさんは、巨大な鏡の前に置いてあったタバコの箱から1本取り出して火をつけると、うまそうに煙を吸いこみ、フーッと吐き出す。 ひと仕事終えた後のけだるそうな仕草が、なんとなく大人の女って感じ。 そして、「あ〜疲れた」とゆうと、鏡に向かって座りこむ。 女らしく正座するのかと思ったら、両脚はM字開脚で、両手をお尻より少し後ろの床につく。 つまり、これは観客が一番見たいと思われる部分を、見えやすくするための悩殺ポーズ? ぼくはエリカさんの斜め後ろにいるわけで、鏡の下のほうを見ると、やっぱりそこには神秘の泉が・・・。
「坊やさー、あたしのことなんか気にしないで、さっさと仕事しなさいよ」 「あっ・・・ゴメンなさい。荷物はどれですか?」 「そこの衣装ケースだよ。あと廊下にも大きなのが2つある。伝票は貼りつけてるからね」 「じゃあ、廊下のほうから先に入力します」
聞こえてくる曲が、ゲンキいっぱいの「BORN TO LOVE YOU」から、フィル・コリンズの「見つめて欲しい」に変わる。 だけど、今はロマンチックな名曲に浸っている場合じゃない。 廊下には、チビのぼくなら余裕で入れるほどのでっかい衣装ケースが置いてあった。 大丈夫かなと不安を感じたので試しに持ち上げてみると、体力の限界ギリギリとゆうか、階段がある分だけビミョーな線か。 時間がかかりすぎてるから、急がなきゃ。 控え室に戻って最後の1個の入力を始めたとき、エリカさんが突然立ち上がり、着ていたガウンを脱いだ。 そして、一糸まとわぬ姿でぼくに近づいてくる!
「あれっ?ちょっと・・・マジっすか?ぼくには彼女がいて、部屋で帰りを待ってくれてるんですっ!」 ぼくは後ずさりしながら、そう言った。 「なに言ってんの?勘ちがいしないでよ〜。ケースの中にこのガウンも入れたいだけなんだから」 「・・・?」 なに言ってんだ?ってこっちが聞きてえよ。 ずっと挑発してるのは、もうミエミエなんだから(…笑)
ぼくはでっかくて重い荷物を3個、決死の形相で運び出し、なんとかデリバンに積み込んだ。 残るは運賃の集金だけ。 ところが、釣り銭準備金を持ってくるのを忘れてた。 「しょうがないわねえ。ついてきなさいよ〜」 エリカさんはそうゆうと、素早くジャージの上下を着こんだ。 そして、ぼくの手を引っ張るようにして、すぐ近くのローソンへ行き、お茶とおにぎりを買ってくれた。
「はい、運賃!これでお釣りがいらなくなったでしょ?」 「ありがとうございます。なんだか申し訳ないです」 「そんなの気にしなくていいよ。キミをからかって楽しかったから、ほんのお礼の気持ちだって」 「やっぱりそうか」 「当たり前でしょ!でも、ちょっと初恋の彼を思い出しちゃった」 「そうっすか?てゆうか、次の埼玉でもがんばってよね」 「うん、埼玉には実家があるんだ。この世界に入ってから一度も帰ってないけどね」 「・・・・・・」 「もうちょっとお金を貯めるまではがんばるよ。じゃあ、気をつけてね」 「はい、ありがとうございますっ!」
ぼくは「一期一会」とゆう言葉をかみしめる。 エリカさんと会うことは、もう二度とないだろう。 どうか、この人に幸せが訪れますように。
けれども・・・ ジイちゃん、ぼくは汚れてしまいました。
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