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2005/11/26(土)
夜明け間際の吉野家では・・・<後編>
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さて、夜明け間際の吉野家。 俺らが店に入っていったとき、奥のほうのテーブル席に先客が二人いた。 ひとりは20代の青年で、もうひとりは中年のオヤジだった。 同じテーブルに座っていたし二人ともスーツ姿だったから、会社の上司と部下が連れだってこんな時間まで飲み明かしていたのだろうと思った。
俺たち三人はカウンターに座り、俺は並盛り、あとの二人は大盛りを頼んだ。 あっとゆう間にアツアツの牛丼が出来上がり、俺たちはモノも言わずにかきこんだ。 みんなが食べ終わると、章二が「トイレ行っとくわ」と言って立ち上がった。 それを聞いて、恭二が「俺も」と連れションすることになった。 俺は一人でカウンター席に残された。
さっきから俺は、右頬に突き刺すような視線を感じていて、それがすごく気になっていたので、少しにらむような目で振り向いた。 食事を終えたあの二人組が俺をジッと見つめていた。 そして、目が合うことを待っていたかのようにオヤジのほうが立ち上がり、にっこり微笑みながら近づいてきた。 「なんだ?なんだ?なんだ?文句でもあるのかよ?」 そんなことを考えている間に、オヤジは俺の右隣のイスに座った。
オヤジはどうでもいいことを話し掛けてきた。 「こんばんは。この時間だと“おはよう”のがいいか?」 「・・・・・・」 いくら年長者であっても、見ず知らずの相手に偉そうな口のきき方をするやつだと感じたから、シカトしてやった。
すると次の瞬間、オヤジはいきなり俺の手を握ってこう言った。 「ワシが絶対しあわせにしてやるけん」 「えーっ?!なに言ってんですか!」 俺はそうゆうのがやっとで、手を振りほどきたかったけど、動けなかった。 「悪いようにはせんから、ワシと一緒に行こう」 鈍感な俺は、それが求愛を意味しているとは思いもしなかった。 「いまは友だちと来てるからダメです・・・」 なんともガキっぽい答えをしてしまったものだ。
オヤジはそんなことは意に介さず、一方的に喋りまくった。 俺の容姿が好みのタイプであると力説して誉め殺し、「なんとかしよう」と企んでいたのだ。 「お金のことなら心配せんでもええ。何万欲しい?」 そう言って財布の中身をチラつかせた。 鈍い俺だが、さすがにハッと我に返った。 薄汚い欲望の餌食にされるのは、まっぴらゴメンだ。 「いい加減にしろ!」 俺は怒鳴って席を立った。 しかし、オヤジが手を離さない。
困った俺は、もう涙目になりそうなのをこらえて左を向いた。 トイレから出てきた章二と恭二が、今にも吹きだしそうになっているのが見えた。 やつらは途中からだが一部始終をジッと見ていたのだ。 「嫌がっとるやろ!離さんかいっ!」 章二と恭二がオヤジに近づきドスを利かせたおかげで、俺はやっと解放された。
僅か数分の出来事だった。 けれども、俺にとっては1時間にも、それ以上にも感じられた。
吉野家からの帰り道、クルマの中はビミョーな空気に包まれた。 「変なんがおるもんやな。あのオッサン、ゆうやに一目惚れやったんか・・・」 「そうゆうことや。でも、連れがおるとこでナンパするか?もしかして3Pってか?ああキモ〜」 「しっかし、傑作やったなあ。焦りまくったゆうやの顔!一生忘れられんわい」 章二と恭二はメッタにない大事件を面白おかしく評論しては、好き勝手にウケまくっていた。
「おまえらねー、俺の不幸がそんなにうれしいか!?」 俺は恥ずかしいやら、悔しいやらで相当に不機嫌だった。 「まあまあ、怒らんでもええがな」 「はっきりゆうて心配やった。けど面白かった!」 たぶんそれは正直な気持ちなんだろう。 「もうええわい。おまえらとは絶交や絶交!」 ありがとうと言えばいいものを、逆の言葉を口にする素直じゃない俺がいた。
生まれたての優しい光が、西に向かうクルマを包みはじめた。 バックシートから後ろを見ると、東の空は真っ赤な朝焼けだった。 俺たちの小さな冒険が終わった。
くだらないことや恥ずかしいことを遠慮なく笑い合える。 友情ってホントにいいもんだよな。
◇ ◇ ◇ ◇
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