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2005/04/12(火)
愛情物語6☆融けた氷の壁
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さあ、そろそろ切り出そう。
「母ちゃん。ぼく、来月の22日に結婚するんだ。今日はそのことを知らせたかったんだよ」 「ホントに〜?!おめでとう!よかった。ホントよかったね〜。ゆうくん、おめでとう!知らせてくれてうれしい・・・」 母ちゃんの声があっとゆう間に涙声に変わった。 「泣くなよ、母ちゃん。泣くな・・・うれしい知らせなのに」 そう言いながら、ぼくもやっぱり涙ぐんでいた。 「くだらない母ちゃんの子どもに生まれたばっかりに、ゆうくんには苦労をかけて・・・。ホントにゴメンね。でも、よかった。強い子に育ってくれて、しあわせになってくれて・・・ゆうくんには・・・何にもゆうことない・・・」 母ちゃんは声をあげて泣きじゃくった。
ぼくは母ちゃんとの別れの場面を思い出していた。
「ゆうくんを必ず迎えに来てあげる」 母ちゃんが言ったその言葉がウソだったことは、いまもやっぱり許せない。 けれども、ぼくには自分が犠牲になっても守らなければならない女の子がいる。 その子と結婚することが決まったいま、ほんのちょっとだけ母ちゃんの苦しさがわかるような気がする。
結婚したあとで父ちゃんが飲んだくれのDV男に豹変して、その後十数年もぼくのため≠ノ耐え続けたこと。 父ちゃんの頭が上がらなかったのはジイちゃんで、そのジイちゃんが死んでからはもう父ちゃんのDVに歯止めが利かなくなり、かあちゃんの我慢が限界を越えていたこと。 ぼくは、あのとき母ちゃんを無理に引き止めなくて良かった。 いまならはっきりとそう思える。
泣き崩れている様子の母ちゃんに、何か声を掛けてあげなければ・・・。
「3日の日にね、あそこへ行ってみたんだ。10年前とちっとも変わってなかった。なぜか人が寄り付かないとこも一緒で」 「・・・・・・」 「ぼくの目には見えたんだ。母ちゃんもジイちゃんも、みんな昔のまんまの姿でそこにいたよ。変わったのはぼくだけで。まっすぐ生きようとがんばったけど無理みたいで・・・」 「・・・・・・」 母ちゃんは黙ってぼくの話を聞いていた。
ぼくは思いきって言ってみた。 「母ちゃん、なんてゆうか、しあわせをつかんだから言えるのかも知れないけど、ぼくを生んでくれてありがとう!」 何とか照れずにゆうことができた。 「ゆうくん・・・」 母ちゃんは何か話そうとするけど、言葉にならない。 ぼくは、かあちゃんの嗚咽が収まるまで待った。
「ゆうくん、ありがとう!無責任に聞こえるだろうけど、ゆうくんを生んでよかった。たったひとり生んだ子どもがゆうくんでホントにうれしい!」 「母ちゃん・・・」 10年近くの長い年月にわたり、ぼくと母ちゃんを隔てていた氷の壁が、音を立てて融け崩れるような気がした。 ぼくの瞳から歓喜の涙が止めどなく溢れ出した。
「ゆうくんのまっすぐな心はちっとも変わってないよ!人間の値打ちは学歴や仕事や生まれた家なんかじゃ決まらないんだ」 「うん」 「ゆうくんは間違ったことができない子だから、自分が思うように生きてゆけば、それでいいんだよ。人は人、ゆうくんはゆうくん!ほら、もっと自信を持って!」 「はいっ!!」 母ちゃんの言葉はとても優しくて、ぼくの良い面も悪い面も全て包み込んでくれるようだ。
≪続く≫
◇ ◇ ◇ ◇
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