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2005/04/17(日)
愛情のしるし☆前編
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先週のある日のこと。
その日、ぼくは仕事帰りに彼女の家に寄り道をせず、まっすぐ自分の部屋に向かった。 最上階付近で止まっていたエレベーターが降りてくるのを待つ間、ぼくはマンション1階にある郵便受けが気になった。
数日前、母ちゃんが電話で話していた言葉が、頭から離れないからだ。 「ゆうくんのためにずっと続けてきたことがあるんだよ。いつかゆうくんが結婚するときにプレゼントしようと思ってね」 そして、ぼくが「なになに?教えて〜!」と聞いたけど、 「いまは教えない。明日送ってあげるから、着いたときのお楽しみ・・・」 と言って、母ちゃんはプレゼントが何なのか、教えてはくれなかった。
郵便受けに付けている小さなシリンダー鍵を外すと、宅配ピザとかのチラシと一緒に「郵便物お預かりのお知らせ」の紙が入っていた。 差出人のところに母ちゃんの名前! ゆうパックの荷物の不在連絡じゃないから、品物じゃない。 配達記録郵便で送ってくるぐらいだから、たぶん書類のはず。 しかも貴重品。 一体なんだろう?
今日は昼も夜も仕事が忙しくて、ぼくは疲れ果てていた。 腕時計を見ると、時刻は23時を数分回っている。
この時計は、ジイちゃんが高校進学のお祝いに買ってくれた宝物だ。 ぼくらの世代はケータイがあるから腕時計をしなくなったけど、ぼくはいまも左腕にちゃんとしている。 ジイちゃんは、この時計を買ってくれた半年後に死んだ。 ジイちゃんの形見のような気がするから、ぼくはいつも身に着けている。
大汗をかいたから早くシャワーを浴びてひと息つきたいところだけど、母ちゃんからのプレゼントが気になる。 「たしか、この郵便局なら24時間受け取りができるはず。まあ行ってみてダメと言われてもいいや」
ぼくはエレベーターに乗り、いったん部屋に入った。 郵便物の受け取りに実印(実際には印鑑なら何でも良い)が必要だと思ったからだ。 ぼくは大急ぎでテーブルの上にコンビニ弁当を置き、押入れの中の箱から印鑑を取り出した。 そして1階に戻ると、駐車場に停めてあった軽トラに乗り込み、郵便局へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
郵便局の夜間受付用の小窓をノックすると、当直の職員が出てきた。 この職員がドランクドラゴンの塚地にそっくりで、 「わっ、この人たぶん真里ちゃん(さやかの親友)の兄貴かも知れないなあ」 などと勝手な想像をしたけど、名札を見た限りでは他人のようだ。 その塚地さんにお知らせの紙と免許証を見せ、受領印欄に印鑑を押すと、母ちゃんから届いた郵便を渡してくれた。
ドキドキしながら白い封筒を持ったとき、手に伝わる感触で母ちゃんがぼくにくれたもの≠フ正体がわかった。 制服姿が良く似合っている塚地さんにハサミを借りて、封筒の縁を丁寧に切り取った。
やっぱり!!!
封筒の中から出てきたのは、郵便貯金総合通帳とキャッシュカード、それに三文判だった。 一瞬にして涙が溢れ、瞳からこぼれ落ちそうになったぼくは、急ぎ手の甲で涙を拭った。 ハサミを返そうと塚地さんを見ると、彼はぼくのほうをずっと見ていたようだ。 「よかったですね」 と、微笑みながら小さく声を掛けてくれた。
その笑顔があまりにも優しくて、 「はい。10年近くも離ればなれになっている母ちゃんから・・・」 そう答えると、辛うじてせき止めていた涙が溢れ出してきた。 「ゴメンなさい・・・」 塚地さんは目の前で泣いているぼくに、 「しあわせな贈り物をお渡しできて、私もうれしいです」 と、さらにうれしいことを言ってくれた。
もし昼間受け取りに来ていたら、こうゆう感動はなかったかも知れない。 今夜すぐ取りに来てよかった。 お名前を覚えてなくて申し訳ないけど、塚地のソックリさん・・・ありがとうございます!
≪続く≫
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