【青春交差点】
 
いつもどんなときも。ぼくはぼくらしく。
 
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2005/04/24(日) 遥かなるジイちゃん☆墓参り編 第5話
 
ジイちゃんのお墓は、長くて急な上り坂のテッペン近くにある。
けれども、ぼくの目には入ってこない。
坂道から見えるような一等地ではなく、ずっと奥のほうにあるからだ。

やっと・・・目印にしているカーキ色の囲いを施したお墓に近づいた。
ここで右に曲がらなければ、ジイちゃんのお墓には入ってゆけない。

ジイちゃんに早く会いたいばっかりに彼女のことも考えず、ちょっと早足で歩きすぎた。
「大丈夫か?」
ぼくは後ろを振り返り、彼女に声を掛ける。
「平気!平気!」
彼女は明るく微笑んでくれた。

「なかなかゲンキじゃん。ここから奥に入ってゆくんだよ」
「もうすぐだねっ」
「うんっ!」
ぼくらはまた歩き始めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

ぼくは、誰かが先にジイちゃんのお墓参りをしているはずだと思っていた。
ジイちゃんには男女合わせて7人もの子どもがいる。
今日(3月21日)は既に彼岸の中日を過ぎているんだから、きっと誰かがお参りして、キレイに掃除もしてくれているだろう。
そんなふうに思いこんでいた。

が!
ジイちゃんのお墓を見た瞬間、ぼくはその場に茫然と立ち尽くした。
新しいしきび≠ネんかはカケラもない。
それよりも、恐ろしいぐらいに長く伸びた雑草が、背後から墓石に覆いかぶさり、ひび割れたコンクリートの隙間から生えた野太い雑草が堂々と群れをなし生長している。
干乾びた落ち葉は数知れず、コンクリートの地面が見えないほどに積もっている。

さらに、引き抜かれた枯れ草と用済みのしきびがジイちゃんの敷地≠ノ高く積み上げられている。
きっと近くのお墓を参った人が、捨てて帰ったのだろう。
墓地の端っこに位置して人目につかず、また何年も放置された雰囲気だから、捨てやすかったのだろう。
手洗い場の近くまで下れば焼却炉があるとゆうのに、ひどいことをするヤツがいるもんだ。

「すげえことになってんなー」
ぼくは苦笑いをしたけど、ホントは泣きたい気分だった。
「そうだね」
あまりの惨状に彼女も驚いている。
「何から手を着けようか?俺はその枯れ草を下に持ってくから、さやかは葉っぱを集めてよ」
「うん」
ぼくらはジイちゃんのお墓の大掃除に取りかかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇

急勾配の坂道を何往復もすることは、喘息患者にとっては相当にキツい。
彼女が手を真っ黒にして落ち葉を集めている姿を見るとかわいそうで、そんなことをさせている自分が情けない。
それに、2年間もゴミに埋もれ耐えてきたジイちゃんの惨めさを思うと、自然に泣けてきて、ぼくは何度も拳で涙を拭った。

そうやって何とかゴミは取り除いたが、非力なぼくには頑固に根を張る雑草を引き抜くことができない。
ムキになって引っ張っているうちに、素手で作業をしていたから手が滑り、葉っぱで左の手のひらを切ってしまった。
「あ、いたたたっ!」
思わずうずくまり左手を開いてみると、じわっと赤い血がにじみ出てきた。
貧血のぼくは血を見ると、とたんに気分が悪くなる。
耳鳴りがして目の前が真っ暗になり、とても立ってはいられなくなる。
ぼくは掃除したばかりのコンクリートの地面に仰向けになり、彼女がバッグを頭の下に敷いてくれた。

「ゆうやくん、大丈夫?しっかりして!」
彼女の声が、ものすごく遠くから聞こえる。
「ゴメンな。俺のせいでこんなことさせちまって」
ぼくは何を思い彼女に謝っているんだろう。

貧血で倒れたことか?
いや、ちがう!
墓参りもしない親族しかいないことか?
そうゆう血筋に生まれてきた自分自身を恥じているのか?
たぶん・・・そうかも知れない。
どうにもならないことなのに・・・それでも彼女に申し訳ない気がする。

突然、左手に激痛が走った。
彼女がヤカンに汲んであった水で、ぼくの手を洗ったからだ。
「いてえ〜っ!」
これでいっぺんに目が覚めた。

「エヘヘヘ。ゴメンなさい。いちおう消毒です」
「こうゆうときにマネすんな!」
「だって、便利なんだもん。エヘヘヘ」
こいつ、ぼくの照れ笑い兼愛想笑いをマネしてやがる。

ぼくが起き上がろうとすると、彼女が「もう少し寝てたほうがいい」とゆうので、そのまま空を眺めていた。
見渡す限りの青い空と墓地独特の神秘な静寂がぼくを包みこむ。

ジイちゃん、もう少し待ってよね。
すぐに起き上がるから。

その間に彼女は墓地の入口にある手洗い場まで下りてゆき、ヤカンに水を汲み、草刈り鎌を持って戻ってきた。
ぼくは気づかなかったけど、手洗い場の壁に鎌が何丁か掛けてあったらしい。


≪続く≫
 


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