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2005/08/14(日)
続・4階のないマンション
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非の打ちどころのない人間なんて、この世にはいない。 完璧そうに思える人だって、必ずどこかに欠点を持っているものなのだ。
蔵本健、27歳。 いま現在、同じ仕事場にいる先輩だ。 腰が低くて礼儀正しく、誰にでも明るい笑顔で接し、どんなにキツイ仕事でも弱音を吐かずやり通す。 当然お客さんの評判もよく、年下の者からも慕われている。 まだまだ短いぼくの人生だけど、現実社会で出会った人たちのなかでは『太陽にいちばん近い男』である。 太陽に近いからといって、ガングロに日焼けしているとゆう意味じゃない。 周囲に光と暖を与える存在だとゆう意味だ。 くどいようだが、いちおう説明しておくことにする(…笑)
しかし、蔵本先輩をライバル視する立場にいる者たちは、口をそろえて彼を批判する。 「軟弱なやつ」とか、「客にヘコヘコしすぎ」とか。 容姿の欠点を醜い言葉で指摘する者もいる。 蔵本先輩はそのことを知っているけど、自分の陰口を叩いている者にさえも明るく接してしまう・・・。 とにかく、お人好しなのだ。
そして先日、蔵本ダイキライ派を狂喜乱舞させる事件が起きた。 正確な仕事を誇る蔵本先輩が、まるで呪われたとしか思えないような事件。 それは、あの「4階のないマンション」で起きた。
以下、臨場感を発揮するために敬称略。
◇ ◇ ◇ ◇
その日の朝、古井マンション307号室にクール便で精肉が届いた。 配達コースを変わったばかりの蔵本にとって、初めて経験する古井マンションだった。 ぼくは一言だけアドバイスをした。 「あそこ4階がないけん、注意してくださいね」 「よっしゃ!わかった」
宅急便経験が長い蔵本のことだ。 いちいち心配することはないだろう。 それに配達先は3階だから、4階がなくても関係ないはず。 ぼくはそう思っていた。
午前9時すぎ、蔵本は古井マンションを訪れたが、そのときはあいにく受取人が不在だった。 午後9時近くになり、ようやく再配達依頼の電話がかかってきた。 体育会系の蔵本は体力に自信があるから、エレベーターなど使わず、階段を一気に駆け上る。 そして、307号室の前に立ち、インターホンを押した。 が、応答なし。 部屋は真っ暗で、ドアをノックしてみたが、なかに人がいる気配はなかった。
「さっき電話してきたばっかりやのに・・・。急用でもできたんかなあ」 諦めかけた蔵本は、ドアノブにビニール袋が掛けられていることに気づいた。 スーパーやコンビニで買い物をしたときにくれる白いビニール袋だ。 「そうか。これに荷物を入れといてくれとゆうことやな」 そう考えた蔵本は荷物を袋に入れ、「ここに置かせてもらいます」と書いたメモを残しておいた。
だが、このとき蔵本は重大なミスを2つ犯していた。 まず、玄関先放置は受取人または差出人の指示がない限り、絶対にやってはいけないとゆうこと。 しかも、クール便の生ものだから、言い訳のしようがない。 そして、もうひとつ。 再配達すべき部屋を間違えていたのだ! 勢いよく階段を駆け上った蔵本は、3階を通り越して4階にまで上っていたことに全く気づかなかった。 彼が肉を置いたのは、長らく空家になっている507号室だったのだ。
507号室は、このマンションが4階をなくすまでは407号室だった。 旧407号室、ここだけには部屋番号の表示がない。 誰も住まわせない・・・見捨てられた部屋。
そうだ! 世をはかなんだ住人が自殺したのは、実はこの部屋だったのだ!
悲劇の精肉は1時間後、307号室の受取人本人に発見された。 待てど暮らせど届かない荷物にシビレを切らした受取人は、間違った部屋に不在連絡票が差し込まれていないか、巡回したのだとゆう。 「祟りのある部屋に吊るされた肉なんか、いらんわい!」 すぐさま猛烈な抗議の電話が入ったことは、説明するまでもない。
誰もが認める善人の蔵本。 だが、これまで一度も蔵本と会ったことがない受取人には分からない。 近来稀に見る好青年だとゆうことなど、理解できるはずもない。 哀れ蔵本は天下の極悪人のように罵られ、すっかり落ち込んでしまった。
それにしても、謎が多い事件だ。 ミスター宅急便をして、階数を誤認させた階段。 空き部屋に掛けられていた白いナイロン袋。 蔵本はなにか見えない力に誘導されたのだろうか?
「なんでこんなバカなことやったんですか?」 ぼくは自分のことのように悔しくて、蔵本に質問をしてみた。 「なんでと聞かれても、思い込みでやったことやけんなあ。でもな、マジな話、そんときのことあんまし覚えてないんや」 これが、霊感の鈍そうな蔵本の答えだった。
◇ ◇ ◇ ◇
お客さんにはホントに申し訳ないと思うけど、こんなことぐらいで蔵本先輩の人間としての価値は揺るがない。 確かに仕事の面では、会社の信用を落としたかも知れないけど。 それでも、仕事ばっかりが人間じゃない! ぼくは一人の人間として、蔵本先輩を尊敬している。
◇ ◇ ◇ ◇
【関連記事】
4階のないマンション ―前編― http://diary1.fc2.com/cgi-sys/ed.cgi/rommel/?Y=2005&M=8&D=7
4階のないマンション ―後編― http://diary1.fc2.com/cgi-sys/ed.cgi/rommel/?Y=2005&M=8&D=8
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