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2006/04/06(木)
南ウイング11番ゲートC
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ふと時間が気になった。 時刻は16時に近づいていた。 ぼくらは山下公園を目前にして謎の反転をした。 人形の家も港の見える丘も諦めて、歩いて来た道を桜木町の駅へと急いだ。
松山行きの飛行機の最終便は18:50だった。 まだ3時間、でも、たった3時間。 お台場か、東京タワーか。 両方行くのは無理だと思えた。 券売機の前で、どっちに行くか迷った。 初めて彼女が不安そうな顔をした。 ぼくは強く言った。 「今度また来よう。3泊4日で。だから、今は浜松町に行こう!」 彼女がうれしそうにうなずいた。 「うん♪ありがとう」
再び京浜東北線。 浜松町で電車を降り、ぼくらは東京タワーへ向かった。 ほんの1キロなのに、疲れた足にはすごく遠く感じられた。 歩道が狭くて、都会の人を追い越すたびにつないだ手と手が離れ、また戻った。 増上寺の桜が満開できれいだったから、境内を通り抜けてみた。 見上げると、青地に薄ピンクの花びらが風に吹かれ躍っていた。 間もなくぼくらの頭上に、赤と白のテレビ塔が迫ってきた。
ぼくが東京タワーに来たのは2回目だ。 最初は5年前。 東京から逃げ帰るとき、最後の思い出にしようと訪れた場所だ。 もう2度と来ることはないだろうと思ったのに・・・・。
ぼくはあのときも買った東京タワーの置物を買った。 今はなくした400円の同じやつ。 夜景の絵葉書も買った。 彼女は「みんなのいちご」とか「東京ばなな」をたくさん買った。 その内ひとつは彼女のかあちゃんに、ひとつは職場の仲間に、そして、ぼくのかあちゃんにも。 もちろん、自分が食べる分もちゃっかりと。 なぜか500円の小さな「東京ちょうちん」が欲しいと言うから、買ってあげた。 やっぱり空港で買えるものばかりだったけど、東京タワーで買ったことに意義を感じていたみたいだ。
展望台にのぼった。 2006年3月31日、17時10分。 ぼくらは東京タワーに存在を置いた。 それが一番大事なことだ。 湘南も横浜も同じこと。 この歴史はちっぽけでも永遠なんだ。
本当にきれいな夕日を待ちたかったけれど、やめた。 別の場所で見たかったから、また浜松町の駅に向かった。 モノレールから見える人影ゼロの無機質な芝浦の景色が寂しかった。 しかし、これも東京の一面だと思えるし、嫌いな景色じゃない。
羽田空港に着いた。 到着のときにはわからなかったが、なんてでっかいロビーなんだろう。 余裕で運動会ができそうだ。
あの日と同じ南ウイング11番ゲートのベンチに腰をおろした。 17時55分。 今まさに沈もうとしている夕日が、ぼくらを乗せる飛行機の翼を温めていた。 5年前には泣いているように見えた夕日が、今日は微笑んでいた。 希望と勇気に輝いていた。
一日中歩き疲れた彼女が、ぼくの小さな肩にもたれて眠りはじめた。 ぼくはやっぱりイケてなくて古めかしいやつなんだと思う。
でも、唯一の救いは、この子がぼくを好きでいてくれることだ。 それだけで強くなれるし、優しくなれる。
夢でも見ることができない一日だった。 頭を左に傾けると、そこには彼女の柔らかい髪があった。
(おしまい)
◇ ◇ ◇ ◇
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