【青春交差点】
 
いつもどんなときも。ぼくはぼくらしく。
 
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2006/05/11(木) サウンド☆ハウス 第3話
 
やっほ☆ミ(/ ̄O ̄)/
ゆうやです。

3話完結の世にもありふれた物語「サウンド☆ハウス」は、いよいよ今日が最終回!
じゃーん♪♪
祐太はこの青春交差点を果たしてどっちに進むのか?
読んでる皆さんは、ラストシーンに感動できるのか?

では、さっそくどうぞ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


サウンド☆ハウス
<第3話>


「祐太くん、大変!」
閉店の時間が近づき、レジの金種をチェックしていた紀代香が、素っ頓狂な声をあげた。
「レジのお金が5千円も足りんのよ。どうしょうか?」
「しーらない」
祐太はそう言ってはみたものの、胸騒ぎがしてきた。
それに、すっかりしょげ返って青くなっている紀代香を見ると、さすがに放ってはおけない。
「俺が数えてやるよ」
しかし、何回数えなおしても5千円足りなかった。
「5千円、5千円・・・。かなり大金やな」
わざと呑気そうに呟いていた祐太だが、すぐに青くなった。
「あっ!そういえばもしかして・・・。げえーっ!あのときや。やべえ」
祐太はその日3回レジに立ち、その中で思い当たった出来事を紀代香に詳しく話した。

「俺、弁償します」
「ええよ。裕太くんにレジ頼んだんはわたしやけん。てゆうか、なんで今だけ敬語なん?」
丁寧に言っただけのことで、敬語を使ったわけじゃない。
が、祐太にはそれを突っこむ元気がなかった。
「いやあ、それは・・・。紀代香に・・・えっと、紀代香さんに申し訳ないことしたなあって・・・」
「あはは。いっつも憎たらしいクセに、かわいいとこもあるんやね」
祐太は神妙な顔をしていたが、紀代香は逆にすっきりとした顔をしていた。
できれば抱きしめたいほどかわいがっている祐太が、自分でミスに気づいてくれた。
そのことが、よほどうれしかったに違いない。
「さあ、もうええよ。泣かんでも」
「泣いてないわい!なに言うとんじゃ」
腹の底から可笑しくて、2人は顔を見合わせて爆笑した。

翌日、紀代香は非番だった。
あの件は祐太が学校でうとうとしている時間帯にでも、電話で店長に伝えてくれたのだろう。
祐太は息苦しくてたまらなかった。

閉店間際。
壁に埋めこまれたスピーカーから、kiroroの「長い間」が静かに流れていた。
「店長、あのう・・・昨日お金が5千円足りんかったみたいなんですけど、あれ、ぼくのせいなんです」
祐太は店長に全てを話した。
「ほうやったんか。紀代香がそんなミスするんは珍しいなと思とったんやけどな」
「ゴメンなさい」
「うん。わかった。ほやけど、また同じミスしよったら、頭しばくで」
「はいっ!」
店長の目はいつものように穏やかに笑っていた。

祐太にとってこの経験は大きかった。
正直であることが、いつも得をするとは限らない。
正直すぎたばかりに、ときには損をすることだってある。
だが、それでもなお正直であることの清々しさを覚えたからだ。

こっそりバイトしていることも、ミニバイクに乗っていることも、そして家庭の事情も、学校の先生に本当のことを話そう。
祐太はそう思った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


時は流れた。


高校卒業後も祐太は、そのままサウンドハウスに正社員として勤めた。
しかし半年後、思うところがあり、慣れ親しんだ店を辞めて上京を決意した。
店長と紀代香は祐太に餞別をくれた。
旅立ちの前日、祐太は店長にベルトを、紀代香にはペンギンのぬいぐるみをプレゼントした。

その後、音楽ソフト専門のCDショップの経営は、急速に苦しくなった。
音楽市場全体の冷え込みは、予想以上に厳しかった。
さらには、レンタルビデオ店や一般書店の販売在庫の充実、ネットショップと中古市場の急成長。
それら新興勢力の台頭の前に、全国各地の小規模専門店が次々と姿を消していった。
サウンドハウスも例外ではなかった。

2003年春、多くの学生たちに惜しまれつつ、サウンドハウスは遂に落日の日を迎えた。
閉店セールは、店長と紀代香が最後の一矢を報いる大盛況だった。

間もなく店長は、1キロ離れた歓楽街に近い場所にコンビニを開き、軌道に乗せている。
東京で夢破れて故郷に舞い戻った祐太は、たまにその店を訪れる。
柔和で腰の低い店長の接客姿勢は、相変わらず見事だ。

紀代香はお見合い相手に見初められ、はるか南の町へお嫁に行った。
きっと良き妻、やさしい母になっているのだろう。
祐太の部屋には、毎年必ず紀代香からの年賀状が届く。
何度か住所を変えたのに、それでも必ず届く。
祐太が返事を出していて、郵便局にもちゃんと転居届を出しているからだ。


ひとつ消えた学生街の灯りは、その後2度と灯されていない。
白い壁に残る「SOUND☆HOUSE」のロゴの跡と「テナント募集中」の赤い文字が物悲しい。

でも、祐太はその前を通るたび、あの日、新太郎がかけてくれた言葉を思い出す。
そして、あの涙目を何度も乾かしてくれた店長と紀代香の笑顔が、優しい春風となって胸に吹くのだ。


<完>


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【イメージ画像】
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