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2008/12/16(火)
ゾンビ小説
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遅ればせながらスティーブン・キングのゾンビ・パニック小説「セル」上下巻を読了。
最近、なんだかめっきり小説読むスピードがダウンです。 というより、活字読んでてコックリコックリ…が年々激しくなっている感じがします。
内容はこんな感じ。 ある日、携帯をかけてた人間たちが皆狂い出し、レイジウィルス感染者ばりの凶暴さを発揮して世の中大どんちゃん騒ぎに。 で、家族の安否を確かめるべく主人公が絶望的な旅に臨むという内容。来年には映画化も。
http://jp.youtube.com/watch?v=8sZhsLCuC7g&feature=related ↑こちらは小説のトレーラー。
で、これはキングなりのロメロ的シチュエーションのゾンビ小説。 実際のところロメロとリチャード・マシスンの「地球最後の男」への返歌的な箇所多数。
「地球最後の男」3度目の映画化作品、ウィル・スミスの「アイ・アム・レジェンド」の凡庸な脚色と比較すると、もう神の所業です。なるほど…と唸らざるを得ませんでした。
何よりも携帯がもたらした狂人化現象の原理が実にユニークで、よくそんなこと考えつくなぁ〜と感心です。このアイデアだけでも一読の価値はあるかと思われます。
基本のシチュエーションはゾンビファン的にはワクワク。 そして恒例、キャラクターたちの執拗な掘り下げにも期待。 で、のっけからキャラ紹介そっちのけのフルスピードでパニック描写がスタートします。文体も柔らかく読みやすい。
ところが意外と私なんかが思い込んでいる「キングっぽさ」という意味で、ちょっと淡泊な内容だったかなと。
話が進むにつれ、「ダークタワー」シリーズ的な不条理ファンタジーのノリになっていくのも好き嫌いが分かれるところでしょうか。 まあ、そうは言っても充分に濃いし、エンタメ要素も高いのですが。
で、この小説、さすがキングと思わせる箇所が。
世の中ゾンビだらけのパニック状態にいきなり突入。 その時、主人公は何を考えるか?
車を手に入れる? 立て篭れるショッピングセンターを捜す? 銃砲店で武器をゲット?
いえいえ、そんなワクワクサバイバルな事じゃなくて、 やっぱり普通はなんとかして家族・恋人・親しい友人の安否を知ろうとするでしょうに。
78年「ゾンビ」なんかはここを割とスルーしてます。 この部分が欠落していると、パニック物としては深みに欠けちゃう感があります。
リメイク版「ドーン・オブ・ザ・デッド」は、開巻早々主人公の目の前で旦那が死んでゾンビ化してました。あれは実に合理的なシチュエーションです。 もう主人公には心配する家族いませんよ、みたいな宣言をとっとと済ませちゃって、主人公を自由に動かせるようにしてるんですから。
で、一方でヴィング・レイムス演じる警官は家族の安否が最優先のキャラとして描かれます。やっぱりパニック物を描くにあたって登場人物が“その場にいない家族の安否を気にする”ってのはリアリズムと説得力を与える意味で必要不可欠ではないかと。
今思うと「ドーン〜」って家族絡みの描写がやたら挿入された珍しい脚本でした。キャラの数絞って散漫さをなくせば、もう一段上のホラー映画になれたかもしれませんね。惜しいです。
ともあれ「セル」の主人公は世の中が変わり果てた中、なんとかして家族の元へ向かおうとする訳です。 主人公の行動動機としてこれ以上のものはありません。
それは物語る上でベストの選択だと思うし、逆にキングがそう考えるんだから、やっぱりゾンビにしろ怪獣にしろ、パニック小説は家族絡みの物語で牽引するのが構造上正しいのだろう、と強く認識させられたのでした。
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