|
2005/02/24(木)
ー
|
|
|
まだ全然日にちが経ってないので、全く気持ちの整理が付かない。 私がこんなだったらあの子は心配するだろう。 そう思って元気を出してはまた胸が痛くて泣いてのくりかえし。 簡単に立ち直れるわけはない。
病気は3ヶ月前から着々とあの子の体を蝕んでいたようだ。 それでも健気に甘えてきていた。 ずっとずっと甘えてきていた。 最後まで私には甘えていた。
妊娠中で動けなかったというのは言い訳だ。 あの子を早いうちに病院に連れてゆくことは出来たのだ。 最初はただの風邪だと思った。 なかなか構ってやれないので、寂しくて調子を崩しているのだと思った。 だから、調子を崩してからはずっと一緒にいた。 あの子は嬉しそうだった。 なんとなく元気になっていってる気がした。 だからそんな大きな病気だとは思わなかった。 そうして病気は速度を増して、あの子はどんどん衰弱していった。
それでも、とても苦しいだろうに、いつものように私の布団に入ってきた。 またよくなったのかと勘違いした。 毛布を授乳するようにふみふみする。 いつものように。 最近は私の胸にもふみふみしていて、それがとてもいとおしかった。 母乳が出たらあの子にも飲ませてやろうかとも思った。
あの子は赤ちゃんのときに一人でうちに来た。 私が連れてきた。 私の子になった。 哺乳瓶を自分の両手足で支えて飲んでいた。 可愛い子。
最後の日、お医者様に暖かい砂糖水やお湯を飲ませてやって、体を温めてやってといわれた。 もし頑張ってくれたら、明日も来て下さいと言われた。 助けたかった。 奇跡が起きるまでもたせてやりたかった。
抱っこして、外を見せてやった。 大きな目で、じっと外の風景を見ていた。 何を思っていたのだろう。
抱っこして、ベランダに連れて行った。 昔はよく、洗濯物を干すとき一緒にて、あの子はひょこひょこあるいて日向ぼっこをしていた。 気分転換で歩けるかなと思い、地面に下ろしてやった。 すぐにうずくまってしまったので、また抱っこして一緒にうろうろした。 マンションが出来たりして変わってしまった風景に、あの子は興味を示さなかった。
しばらくしてまた暖かい砂糖水を飲ませた。 いやいやしていたけれど、少しでも体力をつけさせてやりたくて、強引に飲ませた。
その直後あの子は体の中のものを出した。 とても苦しみながら。
間隔のあいてゆく呼吸。 苦しんであえぐだけの呼吸。 それでもあの子をつなぎとめる呼吸。
ただ抱きしめた。 ごめんねと謝った。 泣き叫んで謝った。
吐けるように、口に手を突っ込んだけれど、もう吐くものはなかったのだろう。 ただあの子は吐くようにあえいだ、少しの呼吸のたびに。
やーちゃんお前のこと大好きだよ。 馬鹿みたいに繰り返し叫んだ。 お前は本当にいい子だよ。 お前のこと、本当に可愛くて大好きだよ。
腕の中で、あの子の呼吸が減ってゆく。 呼吸がないときも、腕で力強く何かを掴もうとする。 その腕を握り返してやる。
あの子の呼吸が止まる。
生まれたても赤ちゃんのように、座っていない首がだらんとして、崩れないようにあの子をずっと抱きしめる。
苦しめてごめんね。 寂しい想いばかりさせてごめんね。 謝りしか出てこない。
一昨日の夜、あの子の好きなお菓子や魚などを、だんな様とあのこと3人で食べた。 妊娠してからやめていたビールを飲みながら。 あの子の気配を感じて、どれを食べようか迷っている姿が見えて、 がっつきている姿が見えて、何だか楽しくなった。
昨日の朝、あの子を庭に埋めた。 あの子みたいな小さな可愛いお花をその上に植えた。
寂しくなったらいつでも戻ってくるんだよ。 そういったけれど、戻ってきて欲しいのは私のほうだ。 ずっと夢の中で、あの子はきてくれている。 私が心配なのかもしれない。 きっとそうなのだと思う。 お腹の子のためにもしっかりしなくてはいけないし、他の子たちにも心配させられない。 でも今はまだふらふらしてしまう。
早くあの子に会いたいと思うのは、後ろ向きだろうか。 早くあの子の待つ場所へ行きたいと思うのは。
そのために、私は今を生きているのだけれど。 あの子とまた一緒に暮らすために、なぁなぁに一生懸命生きようと思う。
またみんなで暮らすときを楽しみにしながら、生きようと思う。
そう思って、少しだけふっきれた気がする。
あの子そっくりな子を探そうかとも思ったけれど、中身があの子そっくりな子なんていないだろう。 あの子はあの子しかいない。 あの子はあの子だ。 もうしばらくは逢えないのだろう。 また逢えるまで少しだけ寂しいだけだ。
まえ、『猫がいなくなったら犬を飼おうか』といったことがある。
でも今は、それを思わない。
私の子達は、私の生涯この子達だけ。
今は、あの子の奥さんと子供たちを今まで以上に愛そう。
力ない体で力強く外を見つめたあの子のかわりに、私は頑張って生きよう。
|
|
|